LINEで送る
Pocket

 

Pick up topics
1. 広島県が主催する「ひろしまシェフ・コンクール」とは?
2. 『浄土寺レストラン』で腕をふるった新進気鋭の若手シェフたち
3. 広島県が仕掛ける「食」事業の今後の展開

 

 

1. 広島県が主催する「ひろしまシェフ・コンクール」とは?

「ひろしまシェフ・コンクール」とは、豊かな「食」文化を通じて「ひろしま」の認知度や評価を高め、「ひろしま」が「おいしい」地として知られるように、さまざまな取組みをおこなっている『広島県』が、広島の料理界をリードしていく若手料理人を発掘し、育成するために開催するもの。広島の食のブランド力をアップさせるには、腕のたつ料理人を育てることが必要だと考え、2014年からスタートしたコンクールだ。自治体が著名な料理人を起用して地元食材をPRすることはあっても、料理人を発掘、育成して「食」をPRしようとする取り組みは、他に類をみない。

2018年は中村勝宏シェフ、吉野建シェフ、料理研究家の山本益博氏らを審査員にむかえ、「第5回ひろしまシェフ・コンクール」が開催され、上位3名が表彰された。この成績優秀者3名には、海外の星付きレストランでの修業を広島県が資金面で支援する。

海外での修業を終え帰国した若手シェフたちには、広島県主催のレストランイベントに参加するなどの活躍の場が与えられる。その一環として開催されたのが、『浄土寺での期間限定レストラン』。広島県尾道市の国宝・浄土寺にフランスの二つ星パトリック・アンリルーシェフを招き、集結した「ひろしまシェフ・コンクール」歴代の成績優秀者5名が、広島食材の魅力がつまった料理を共に考案、提供した。

※詳しくは前編記事参照

【特別レポート】国宝「浄土寺」で魅せる、広島の食材とフランス二つ星パトリック・アンリルーシェフによる夢の饗宴


2. 『浄土寺レストラン』で腕をふるった新進気鋭の若手シェフたち

『浄土寺での期間限定レストラン』で活躍をみせた「シェフ・コンクール」成績優秀者5名を紹介しよう。まずはこのシェフの名前を覚えてほしい。

赤井顕治 Kenji Akai
広島県広島市出身。
「第2回(2015 年度)ひろしまシェフ・コンクール」成績優秀者。広島県の支援を受け、フランスのヴァランスにある三つ星『メゾン・ピック』で修業。

赤井シェフ談:『メゾン・ピック』では、一生懸命働き、楽しみ、最後には肉の火入れを任されるまでになった。技術だけでなく、チームでのコミュニケーションのとり方など人間関係も学び、大きな財産となっている。自分の料理の方向性は『メゾン・ピック』と異なるが、『メゾン・ピック』での経験が自分の料理人としてのターニングポイントとなったことは明らかだ。

そして彼の名前を全国に知らしめたのは、若き才能を発掘する日本最大級の料理人コンペティション「RED U-35 2017」で、見事グランプリ「RED EGG」に輝いたこと。「RED U-35 2017」の出場申込みをしたのは、『メゾン・ピック』での修業のまっ最中だったという。『メゾン・ピック』で培ったすべてのことが反映され、グランプリを勝ち取ったとも言えるだろう。

「瀬戸内産アコウをサフラン・パルメザン風味のリゾットに添えて、広島県産レモン味のオイルと季節のジャルダン野菜とともに」~『浄土寺での期間限定レストラン』のメニュー

赤井シェフ談:魚をリゾットにのせて、サラマンダーでゆっくり温めていく。料理の構成としてこのメニューが一番おいしそうだと感じた。料理のノウハウのほかに、パトリック・アンリルーシェフから学んだものは、どんな環境にあってもよりよい料理を作ろうとする姿勢。スターシェフであるにも関わらず、朝早くから厨房に来て自分たちと一緒に仕込みをする姿に、なんて真面目なのだろうと感心した。

2019年2月、満を持して広島県廿日市市の宮島口駅近くに自らのレストラン『AKAI(アカイ)』をオープン予定。こだわりを詰め込んだ思い描くとおりのレストランに仕上がるよう、ただいま鋭意準備中。今後は間違いなく、広島ガストロノミーを牽引する料理人の1人として、国内外から注目を集めることだろう。

これから紹介するシェフは、『浄土寺での期間限定レストラン』の後に開かれた『平山郁夫美術館で食する1夜限りのレストラン』でも腕をふるっている。尾道市瀬戸田町生まれの日本を代表する画家・平山郁夫氏の偉業を紹介するにふさわしい風情あふれる同美術館で「初めて」おこなわれる食のイベント。そこで彼らは、修業先から帰国後「初めて」自らが考案したレシピをゲストに提供するという、「新しい旅立ち」イベントとなった。筆者も出席させていただいたので、以降はそのイベント時の担当料理とともに、シェフたちのプロフィールを紹介していこう。

小竹隼也 Junya Kotake
広島県広島市出身。
「第1回(2014年度)ひろしまシェフ・コンクール」成績優秀者。広島県の支援を受け、フランスのモントルイユ村『ラ・グルヌイエール』で修業。同レストランのオーナーシェフであるアレクサンドル・ゴティエ氏はフランスの世界的美食ガイド「Gault & Millau(ゴ・エ・ミヨ)」で、2016 年にChef of the year(今年のシェフ賞)を受賞したスターシェフ。

小竹シェフ談:ゴティエシェフの素晴らしさは、料理の技術はもちろん、地元を愛していることだと思う。地元で生産される食材やアイテムを料理に乗せて世界に発信している。モントルイユ村は小さな街だが、その力はフランスの地方の中でもトップクラスだと感じた。また彼は「料理人は料理を作るだけじゃない」という事も教えてくれた。休みの日はスタッフらを連れて美術館をめぐったり、パリでおこなわれるイベントに参加したり…。あまり直接的に物を言う方ではなかったシェフから、自分を含めスタッフみんなが、そこで何かを感じていたと思う。料理人というカテゴリーの中だけで仕事するのではなく常に進化を求め、他の職種などをみたとき何かコラボレーションできないか、ということを常に考える大事さを学んだ。

牡蠣とクレソンのブイヨン

牡蠣のポシェにクレソンのブイヨン。付け合せのフェッタチーズと、バターで香ばしく焼いたバケットのチップスがブイヨンをふくよかな味にし、軽く火を通したきゅうりが磯の香りを包み込む。最後にさわやかなミントの泡がかけられ、瀬戸内の牡蠣のうま味をバランスよく楽しむことができる一皿。

小竹シェフ談:今回の2つのメニューは、お世話になったゴティエシェフのビストロ『アネクドット』で実際に出している料理。広島で自分が手掛けて作る料理の一発目なので、向こうでも特に評判が良かった料理を作らせてもらうことにした。中でも、「牡蠣とレモン」を使う料理をセレクト。広島は「牡蠣とレモン」の産地だという強みがあるので、この2品に決めた。もちろんイベント用にアレンジもした。

Dessert レモンクリーム アーモンドのキャラメリゼ

レモンの香りを付けた黄色のメレンゲを器に見立て、レモンのカスタードクリームを包み込む。 添えられたレモンの葉と3種のナッツのキャラメリゼは、鮮やかなレモンの色と味を引き立て、デザートらしい甘さと瀬戸内レモンの風味をしっかり感じる一皿。

小竹シェフ談:自分がいたビストロ『アネクドット』で、個人的に一番お気に入りだったデザート。元々、「Lemon curd」(レモン果汁とバターに砂糖と卵を湯煎にかけてペースト状にしたもの)はイギリスのデザートで、自分がいたフランスの街はイギリスが近かったこともあり、このようなデザートも出していた。広島は「牡蠣とレモン」の生産地として広く知られているが、茸や海の幸、そして肉類などの生産者も多いと思う。自分がまだまだリサーチできていない部分もあり、それらの生産者を、作り手がもっと見て食べて感じ、作り手と同様に広島から発信して行かないといけないと感じている。

『ラ・グルヌイエール』の修業では、オーナーシェフのアレクサンドル・ゴティエ氏から高い評価を受けた小竹シェフ。現在、広島県江田島市で水上レストランを開く構想がある。フランス時代にシェフも巻き込んでビーチで休日を過ごした思い出が胸に焼き付いており、同じ環境を江田島に感じ、フランスで学んだものを持ち帰り、この地で表現したいと目論む。

星本敏男 Toshio Hoshimoto
広島県福山市出身。

「第2回(2015 年度)ひろしまシェフ・コンクール」成績優秀者。広島県の支援を受け、フランスのルーアン地方にある二つ星『ジル』で修業。シェフのジル・トゥルナードル氏は29歳の若さで『タイユヴァン』シェフのポストを提示されるも断り、故郷ルーアンでレストランを開き、一つ星、二つ星と成長させた実力派シェフ。 ほか。『マリオッタ』『レジスエジャックマルコン』『シュールムジュールパールティエリーマルクス』でも修業。

星本シェフ談:シェフのジル氏は、著名なシェフにもかかわらず、毎日必ず厨房で魚料理を担当する。盛り付けや全体のチェック、お客様の対応を中心にされているシェフもおられるが、自分はジル氏のスタイルが良いと思う。いつも厨房におられる方が、スタッフの緊張感もある。新作料理を考えて、良いものができた時に、調理場のスタッフ全員に「トレボン!トレジョリー!」と言いながら周り、その後サービススタッフにも全員に見せてまわるシェフの姿は素敵だった。

小さなアミューズブーシュのバリエーション

4種盛り合わせの小さなアミューズ。トマトのコンポート、粒コショウをアクセントにした生ハムとチーズ、牛肉のタルタル、カボチャのボンボン。見た目のかわいらしさと、口の中で感じる味のバリエーションの面白さから、フランスの息吹をしっかり感じとれるアミューズ。

星本シェフ談:小さなスプーンで提供するスタイルは、修業先の一つ『レジスエジャックマルコン』のシェフ、レジスマルコン氏の料理のスタイルに合わせている。

峠下牧場牛フィレ肉の低温ロースト バターナッツのピュレ

牛肉は、広島県竹原市のブランド和牛「峠下牛」のフィレ肉を使用。温暖な気候で育った峠下牛のうま味を程よい火入れで堪能。付け合わせのバターナッツのピュレとニョッキが味にふくらみをもたせる。

星本シェフ談:この料理は、『ジル』で提供していたもの。『ジル』や他のレストランでもそうだが、フランスでは地方の特産物や食文化をとても大切にしている印象を受けた。レストランのスペシャリテには必ず地方色を感じることができる。

星本シェフは現在、修業前に勤務していた福山ニューキャッスルホテル内のフレンチレストラン『ロジェ』で料理長に務める。

『浄土寺での期間限定レストラン』と同じく、「ひろしまシェフ・コンクール」から発展した取り組みの1つとして広島県が主催した『平山郁夫美術館で食する1夜限りのレストラン』。尾道市長の平谷祐宏氏や、平山郁夫美術館館長の平山助成氏、尾道観光協会副会長の鍛冶川孝雄氏らが出席し、若きシェフたちの料理を楽しんだ。

向井大樹 Taiki Mukai
広島県東広島市出身。
「第1回(2014 年度)ひろしまシェフ・コンクール」成績優秀者。広島県の支援を受け、フランスのアルザス地方にある二つ星『オーベルジュ・デュ・シュヴァルブラン』で修業。ほか、『レストラングルーズ』『ウストー・ド・ボーマニエール』で修業。

向井シェフ談:『オーベルジュ・デュ・シュヴァルブラン』シェフのパスカル・バスチャン氏は、クラシカルな料理に重点を置きつつもシェフの感性を散りばめたガストロノミー。そんな料理に惹かれたのももちろんだが、シェフの人間性、良い料理を提供するには良いチームであることを改めて感じたレストランだった。

向井シェフがフランス修業中に作った料理

向井シェフ談:フォワグラをラビオリ生地で包み、ソースはトリュフの香りをつけたジロール、ヴァンジョーヌベースのソース。軽くエミュルショネしてあるので口当たりは軽く、それでいて濃厚。 シンプルだが、シンプルゆえに素直に美味しいと思った。

大黒神島産牡蠣の味覚発見6 種類の味
『浄土寺での期間限定レストラン』の後日開かれた再現ディナーで、向井シェフが担当した料理。

清浄海域で育つ広島県の大黒神島(おおくろかみしま)の牡蠣を、6つの味にアレンジ。白ワインビネガーとエシャロット、アボカドとレモン包み、リンゴのジュレ、西洋わさびのクリームと海苔、カリフラワーとカレーのクリーム、醤油とオイスターソース、バルサミコで味付けしたタピオカと、スタンダードな味から、めずらしいアレンジまであり、牡蠣の旅をしたかのように多彩な味が楽しめた。

向井シェフ談:素材7割、技術3割。それが正に表れていると感じた。牡蠣に対しての相性、素材を引き立てる組み合わせ。パトリックシェフならではの組み合わせの妙が、とても勉強になった。 向井シェフは現在、修業前の勤務地、リーガロイヤルホテル広島で腕を磨いている。

山本幸雄 Yukio Yamamoto
広島県福山市出身。
「第3回(2016 年度)ひろしまシェフ・コンクール」成績優秀者。広島県の支援を受け、フランスのブルゴーニュ地方にある『メゾン・ラムロワーズ』で修業。ほか、『ジル』『ル・シャビシュー』で修業した。

山本シェフ談:料理の技術では『メゾン・ラムロワーズ』シェフのエリック・プラ氏シェフの影響を強く受けた。今回の料理はそこで学んだテクニックを取り入れている。

尾道産渡りガニとセロリラブのレムラード
上に纏っているのはセロリラブ風味の牛乳のラビオリ。中には、蒸して魚醤と白ワインビネガーで味付けした渡り蟹と、マヨネーズで和えたセロリラブ、トマトのコンフィの3つ。見た目のチャーミングさに、テーブルを囲む女性たちから「かわいい」の声が上がり、口の中で広がる3つの味の饗宴に「おいしい」の声も。ファッショナブルに味わえる一品。

山本シェフ談:瀬戸内の代表的な食材の渡り蟹の美味しさをシンプルに感じて頂きたくこのメニューに決めた。フランスのクラシックなテクニックから成り立つ料理でもある。

瀬戸内産真鯛と大黒しめじ ソースオランデーズ
蒸した真鯛は柚子風味のオランデーズソースとからまり、フレンチの味わい深く楽しめる。
お供はソテーした大黒しめじと、バターで和えた小松菜、ゴマ風味のクルトン。賑やかで、華やかなまるでフランスの貴婦人のような料理。

山本シェフ談:こちらも瀬戸内の代表的な食材の真鯛の美味しさをシンプル味わっていただきたかった。二つの料理とも、フランスのクラシックのテクニックから成り立つ。フランス料理のテクニックを使って、瀬戸内海の食材、季節感、をシンプルに表現することを大切にして作った。 山本シェフは現在、修業前に勤務していたレストラン『ル・ミロワール』(福山市)で中山孝雄シェフと共に活躍中。

今年開かれた「第5回ひろしまシェフ・コンクール」のテーマは「料理2品を作り、その内の1品は〝レモンを使った料理〟であること」。多くのコンクール参加者の中から、最優秀賞に輝いたのは、東京都の『レストラン タテルヨシノ銀座』の外山和己さん(中央)。リーガロイヤルホテル広島の渡辺紘大さん(右)と、ホテルグランヴィア広島の酒井誠友さん(左)がそれぞれ優秀賞を獲得した。若手の3人が修業を終え、広島ガストロノミーを担ってくれる日が楽しみだ。

3. 広島県が仕掛ける「食」事業の今後の展開

「ひろしまシェフ・コンクール」を担当する広島県・ひろしまブランド推進課の参事、宮本 典明氏に話を聞いた。

―「ひろしまシェフ・コンクール」が始まったきかっけ
宮本談:「ひろしまシェフ・コンクール」は、広島県が「広島の食のブランド」を向上させようと取組む中で生まれた企画。食に造形のある有識者をお呼びし検討した結果、コンクールを催すことになった。初回から毎年規模を拡大しながら今年5回目を開催するに至った。「ひろしまシェフ・コンクール」から発展したイベントが、成績優秀者が腕をふるう『浄土寺での期間限定レストラン』や『平山郁夫美術館で食する1夜限りのレストラン』となる。また「ひろしま和食料理人コンクール」も開催し、今年4回目を迎えた。さらに料理人コンクール成績優秀者や料理人の技術研鑽、活性化のために、コンクールのゲスト審査員などによる講演会や研究会もおこなっている。

―そのほかにもイベントを
広島県が誇る日本酒の販路拡大のために、「ひろしまシェフ・コンクール」を通じてつながったフランス人著名シェフの協力を得て。フランス・ブルターニュ地方で広島と広島の日本酒のPRイベントをおこなった。また広島にある飲食店の魅力を広く発信しようするレストランイベント「ひろしまプレミアムレストラン」も開催した。

―今後の展開
若い料理人を発掘してどう育てていくかが、今後の大きな課題。また、磨いた技術を存分に発揮できる環境も作らなければならない。そのためには、食する側の「食育」も必要。今後は食育にも取り組んでいきたい。


【取材・執筆】湯谷葉子
【撮影】増井真太

 

 


 

LINEで送る
Pocket