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近年、レストラン業界でも注目されている「サステナビリティ(持続可能性)」。食資源の枯渇や需要と供給のバランスが問題視されるなか、素晴らしい食材をこの先の未来もずっと食べられるようにしていかなければならないという考え方は、さまざまなシェフや生産者の間でより強くなってきている。そんな中、日本全国の生産者を巡り、後世に伝えるべき食材の発掘や、生産者の収益面のサポートまで行ない注目を集めている企業がdot science(ドット サイエンス)株式会社だ。

同社は、元ヤフージャパンのマーケターである代表取締役の小澤 亮氏、『ティルプス』のシェフ 田村浩二氏、農業科学者の木村龍典氏がタッグを組み、2017年9月に創業。そして、2017年12月21日、神奈川と島根で出会った無農薬栽培の食用バラを使い、“香りを食べるアイスクリーム”をコンセプトにした「FRAGLACE(フレグラス)」の予約販売を開始し話題を集めている。今回は、このアイスクリームの商品開発を担当する『ティルプス』の田村浩二シェフに、dot science株式会社のミッションや、同社初のローンチとなる「FRAGLACE」についてお話を伺った。

Contents
1.農業の仕組みを見直し、インターネットの力で収益化
2.3,840倍の香気成分を持つ、希少な無農薬栽培のバラ
3.4種類の香りが掛け合わさる、新感覚のアイスクリーム

 

写真左から、dot science(ドット サイエンス)株式会社、代表取締役の小澤 亮氏、『ティルプス』のシェフ 田村浩二氏、農業科学者の木村龍典氏。

農業の仕組みを見直し、インターネットの力で収益化

―――dot science株式会社のメンバーは、お三方とも職種が異なりますが、皆様はどちらでお知り合いになられたのですか?

僕ら3人が出会ったのは、2016年に、お台場の屋上にある「都会の農園」で行なわれた、環境省が進めている「森里川海プロジェクト」のキックオフイベントです。その時『ティルプス』では僕が参加し、木村はイベントの主催者サイド、小澤は広報兼カメラマンとして参加していました。

―――どのような経緯で会社が立ち上がったのでしょうか。

弊社の小澤が、2012年ごろから日本全国を周って食の生産者の支援を行なっているのですが、そこに僕もついていったことがありまして。全国の生産者を周る中で彼といろいろな話をしていると、お互いやりたいことが似ていることに気づいたんです。

彼は「農業の仕組みを改めて考え直して、インターネットの力で収益化したい」と言っていて、僕は、いいものを作っている生産者の商品を料理に使って、より多くの人たちにその価値を知ってもらうことで、彼らの仕事を守っていきたいと昔から考えていました。そこから意気投合して、一緒に会社を立ち上げることになったんです。

―――会社の企業理念や事業内容を教えてください。

会社の理念としては、「FOOD VISIONING(フードビジョニング)」をテーマに掲げています。「ビジョニング」とは、「継続的に変化していく世の中の未来を見据える」という意味があるんですけど、いろんなものが刻一刻と変化していく中の、食に関する部分を、その時代に合う形で変化させていきながら、100年後まで続けていけるような、そんな未来を模索していきたいと考えています。

具体的には、良い食材の価値をエビデンスをとって見える化してあげることから始めます。そして、その食材をしっかりと美味しいと思える形に僕が加工する。そのあと、完成した商品を売れるマーケットで売っていくってという流れです。

3,840倍の香気成分を持つ、希少な無農薬栽培のバラ

―――今回、なぜバラに注目されたのですか?

小澤に勧められて神奈川県の平塚にある横田園芸さんに伺って、そちらで作られている「横田ローズ」に実際に触れた事がきっかけです。僕は料理ですごく香りを意識して使ってるのですが、「横田ローズ」は、築地でよく売られている食用バラよりも、香りがものすごく強かったのと、無農薬のバラは珍しく貴重なものなので、食材として使っていこうかなと思ったんです。

―――具体的にどのような香りの違いがあるのでしょうか?

エビデンスの観点で話すと、一般的な「ベルローズ」という食用バラよりも3,840倍の香気成分があるというデータが出ています。バラの香りというのは1種類ではなくて、バラを象徴する香りの成分のほかに、“オイゲノール”という、スパイスのクローブのような香り成分や、シナモンに由来する香りの成分、柑橘系の成分など、いろいろな香り成分が一緒になってできています。その中でも、「横田ローズ」は“シトラール”という柑橘由来の香り成分がすごく強いので、フレッシュ感のあるスッキリした香りが特徴です。

4種類の香りが掛け合わさる、新感覚のアイスクリーム

―――「FRAGLACE(フレグラス)」は、いつごろから考案されていたのですか。

無農薬のバラを使ったアイスクリームは、2017年の3〜5月ごろに、『ティルプス』のデザートとして提供していました。小澤も店に食べに来て、そのアイスクリームを気に入ってくれて、そこからもっとこのバラの素晴らしさを世の中に伝えていこうと思い商品化したのが「FRAGLACE」です。

―――商品化すれば、より多くの方々に知っていただけるということですね。

そうですね。やはり、一つのレストランでいくら食材を使ったからといって、生産者の人って潤わないですよね。消費量がすごく増えるわけでもないですし、レストランで使う量も限られてしまうので。だったらもっといろんな人に届く形にして、一気に量を消費できるようにしてあげれば、商品化された分だけ、彼らには利益がいく。そうすると、いまやっているバラの畑を大きくできるかもしれないし、いろんな新しいプロダクトに挑戦していけるかもしれない。

あとは、それで生産者にスポットが当たって認知度が上がれば、次の世代がバラの農家さんに興味を持ってくれる。そうすると担い手もできるかもしれないという部分もあって。バラのアイスクリームを売るというよりは、いろんないい食材を作っている生産者の方にスポットが当たるお手伝いをしたいと思っていて、そのバラを知ってもらうためのツールとしてアイスクリームがあるという感じですね。

―――「FRAGLACE」のアイスクリームは、どのように作られているのでしょうか?

現在販売されてる「ローズバニラ」だと、アイスクリームは牛乳と生クリームがベースで、そこにバラとバニラ、ココナッツ、スパイスのトンカ豆を加えて香りを移して作っています。それとは別に、横田園芸さんの「横田ローズ」、さらに島根の奥出雲薔薇園さんの「さ姫」という無農薬栽培のバラ、リュバーブを合わせて作ったコンフィチュールを作りました。食べ方としては、最初はアイスクリームから食べてもらって、途中からコンフィチュールをかけて、味の変化を楽しんでもらいます。

横田園芸のバラは、白、ピンク、オレンジ、紫の4種類があり、これらを総称して「横田ローズ」と呼ぶ。生産者の横田敬一氏は、いろいろなバラを食べ、美味しいと思ったものだけを作っているという。多くのバラは基本的に農薬が使われるが、これらのバラは完全無農薬で、化学肥料も使用していない。また、バラのハウス栽培を行なう際、害虫であるアブラムシに対してテントウムシを放し、テントウムシにアブラムシを食べさせたり、育てるバラの横に、バラよりも虫がつきやすいピーマンを植え、ピーマンの方に虫を逃す「コンパニオンプランツ」を実施したりするなど、自然の力をかりて無農薬栽培を実現している。

「横田ローズ」と同じく完全無農薬で化学肥料を使用していない、奥出雲薔薇園の「さ姫」。10年間、品種や栽培技術の研究を重ねて生み出された食用バラで、フルーティーな芳香性と美しい深紅の色、肉厚の花弁が特徴。

特に気をつけたのは、アイスクリームの部分をシンプルにしてしまうと、バラの香りがすごく強いのでソースのコンフィチュールにアイスクリームが負けてしまうんですね。そこで、ベースのアイスクリームにはそのバラと同じような系統の香り成分を持っているバニラ、ココナッツ、トンカ豆を掛け合わせたんです。バニラやココナッツって、どこか懐かしさを感じる味ですよね。ですので、その懐かしさを感じながらも、バラ、バニラ、ココナッツ、トンカ豆の4種類が掛け合わさった新しい香りのニュアンスが入ってくるので、懐かしさと新しさを同時に感じることができます。それでいて、香りの方向性が全部揃っているので、味のボリュームが出て、余韻もすごく長くなっていると思います。

「横田ローズ」、「さ姫」、リュバーブを合わせて作られたコンフィチュール。ほのかな酸味があり、バラのアイスクリームの味わいの変化が楽しめる。

―――ありがとうございます。最後に、今後の展望についてお聞かせください。

農業も漁業もそうですけど、持続性というものが下がってきているので、支援していく商品をしっかりと収益化して、事業として続けていけるところまでお手伝いしていきたいです。最近では、日本の食材とか伝統的な技術というものがなくなりつつあるので、それらの商品や技術を、僕たちがリブランディングすることで、100年先まで守り続けていきたいと思います。

香りを食べるアイスクリーム「FRAGLACE(フレグラス)」

「FRAGLACE」ブランド第一弾として販売中の「ローズバニラ(100mm 6カップ入り)」5400円(込)のほか、2018年1月31日より順次発送される「ローズチョコレート(100mm 6カップ入り)」5400円(込)、「バニラ&チョコ食べ比べ(100mm 各3カップ、計6カップ入り)」5400円(込)の予約販売も受け付けている。

 
〈無農薬栽培のバラが食べられるレストラン〉

サンプリシテ

東京・代官山にある、魚中心のフレンチレストラン。スペシャリテの「クルヴェット・エ・ローズ(海老と薔薇)」で奥出雲薔薇園の「さ姫」を使用。カリフラワーのピクルス、コンソメのジュレ、寝かした牡丹海老に、バラの花びらを砂糖漬けにしたものと提供時に液体窒素で瞬間冷凍したものを合わせている。

 

【取材・文】白石直久
【写真提供】dot science株式会社

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