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2018年2月11日、一日限定のコラボレーションイベント【( )-untitled- vol.3】が、渋谷のTRUNK(HOTEL)にて開催された。フランス・パリを拠点に活躍するシェフ・渥美創太氏(元『Clown Bar』シェフ)をゲストシェフに迎え、キュレーター・本田直之氏、ゲストソムリエ・大橋直誉氏らによって、TRUNK(HOTEL)が提案する”Socializing(ソーシャライジング)”のコンセプトのひとつである”Culture(文化)”をテーマとする、夢の饗宴が実現した。

 

Contents
1. パリ『Clown Bar』元シェフ・渥美創太氏とは何者なのか
2. 京都『飯尾醸造』の富士酢を使用した前衛的な料理たち
3. ゲストソムリエ・大橋直誉氏がプロデュースする巧みなアルコールペアリング

パリ『Clown Bar』元シェフ・渥美創太氏とは何者なのか

渥美創太氏は、フランス・パリを拠点に活躍しつづけている、日本人を代表する若手シェフの一人である。渥美氏は19歳で渡仏し、パリの三つ星レストラン『メゾン・トロワグロ (Troisgros)』『ステラマリス(STELLA MARIS)』などで修業し、26歳という若さで『ヴィヴァン・ターブル(Vivant Table)』のシェフに就任。その後、パリで100年以上続くビストロ『クラウンバー(Clown Bar)』のシェフを務め、バーで提供される料理の概念を覆し、驚きとおいしさを兼ね備えた前衛的な料理で、パリのグルマンたちを魅了した。

そして、フランスで大きな影響力のある「ミシュラン(Micelin)」「ゴー・ミヨ(Gault&Millau)」につづくグルメガイドとして、2000年に誕生した「ル・フーディング(Le Fooding)」において、「ネオ・ビストロ」カテゴリーでトップに輝き、『Clown Bar』を一躍話題のレストランへと引き上げ、自身も期待の若手料理人として注目を集めた。

そんな、グルメの都・パリを沸かせている渥美氏が、今回満を持して帰国し、一日限りで腕を振るうとなれば、東京のグルマンも黙っていない。渥美シェフによる、日本とフランスの文化を強く反映した特別コースを体験しに、ランチ・ディナーともに多くのゲストがTRUNK(HOTEL)に訪れた。

京都『飯尾醸造』の富士酢を使用した前衛的な料理たち

この日のTRUNK(HOTEL)には、京都・宮津で120年以上続く醸造元である『飯尾醸造』の現当主・5代目彰浩氏も駆けつけた。富士酢のうち、渥美氏がパリで愛用していたという「富士酢プレミアム」が、今回のイベントの料理に起用されているからだ。無農薬で栽培した新米のみを原料として造られており、幻の純米酢と評されている。東京都内の高級鮨店でも、近年多く使用されるようになったほどのこだわりの酢が、渥美氏の手によってフランス料理にどのように昇華されていったのだろうか。

①アシェット フリュイ ド メール(Assiette fruit de mères)

まずは、アシェット フリュイ ド メール(=海の幸 のプレート)という名の魚介のアミューズたち。大きなプレートに、様々な調理法と組み合わせでアレンジした国産の貝類が盛り付けられていたり、つづく兵庫県産ホタルイカにはコニャックとブランデーを煮詰めたソースを合わせたり、そして立て続けてに供された三陸産のボタンエビにはカボスジュレを乗せ、トマトのジュースを薄く伸ばし固めたパートフィロをかぶせてみたりと、自由な発想で表現された海の幸のたたみかけるアプローチがすごくショッキングである。4皿目に現れたのは、プロシュートと、トウモロコシのチップス。これらを乾杯のシャンパーニュと合わせ、スナックのように愉しむのである。

②豆乳・蟹(Lait de soja・Crabe)

豆乳を使用した、蟹のスフレである。スプーンですくえばとろっと柔らかい。クリーミーで滑らかな食感と甘く穏やかな風味に、つぶつぶの実山椒が爽やかなキレを加えている。

③じゃがいも・玉ねぎ(Pomme de terre・Oignon)

2つのプレートを組み合わせて食す料理。手前の黒いものは焦がした玉ねぎで覆われた大きなじゃがいもニョッキのようなもので、後ろの小さなブリオッシュと合わせて。

焼きあがったパイ包み焼きをテーブルまで見せにきてくれて、撮影タイム。

④白子・キャベツ(Shirako・Chou vert)

パイ包み焼きだったはずが、各プレートに取り分けて提供されるとパイはその姿を見せず、火入れと香り付けという役割を果たしきったということが分かる。中に包まれていたのは、白子と魚のムニエル。甘みの層が、ソースに使われた赤酢の酸によって、ほどよいバランスを保っている。

⑤鹿・菊芋(Chevreuil・Topinambour)

メインディッシュは蝦夷鹿。グレープフルーツの種と、ここにも実山椒を添えて。これほどまでに、しっとりむっちりと美しい火入れのなされた蝦夷鹿がかつて東京で味わえただろうかと思えるほど、肉料理の概念を払拭し突き抜けた一皿。濃いソースで食べさせることなく、肉自体に味をしっかり含ませているのだ。パリの風土に触れながら、常に新しい発想をもって表現することに臆してこなかった渥美シェフだからこその逸品といえる。

付け合わせの野菜は別プレートでたっぷりと。

⑥猪の頭(Tête de marcassin)

コース料理の最後は手打ちのトロフィエ(ショートパスタ)。猪肉を、フォンドボーのソースでしっかり味わわせる〆の逸品。

デザートは2種。

⑦苺・春菊(Fraise・Crisanthaine)
⑧林檎・さつまいも(Pomme ・Patate douce)

酸味のある苺のムースにフリーズドライにした春菊の苦味という組み合わせ、そして林檎酢と甘いさつまいもピュレの組み合わせが巧妙に組み立てられている。これによって、コース料理を最後まで完食しても食べ疲れをおこさない。日本のフレンチではあまり意識されていない、こういった料理終盤の意義ある酸の置き方には、フランス人が本質的に捉えている食事の在り方が反映されているように思う。ただただ感服するのみである。

ゲストソムリエ・大橋直誉氏がプロデュースする巧みなアルコールペアリング

渥美氏の前衛的な料理に寄り添うアルコールペアリングを提案するのは、白金台『ティルプス(TIRPSE)』オーナーソムリエ・大橋直誉氏。『TIRPSE』は、ミシュラン三つ星レストラン『カンテサンス(QUINTESESENCE)』の跡地に構え、レストラン開業から最速でミシュランの星を獲得したフレンチレストランである。

 

①J.L. Vergnon Grand Cru Extra Brut Eloquence
(ジャン・ルイ・ヴェルニョン グラン・クリュ エクストラ・ブリュット エロカンス )
乾杯にふさわしいシャンパーニュは、白ブドウのシャルドネを100%使用したブランド・ブラン。あえてマロラクティック発酵をさせず、キレのある酸とミネラル感を残している。『飯尾醸造』の富士酢が軸となった今回のコースのはじまりに持ってこいの一本である。

②Bandol Rose Domaine tempier

③Parisy / Chateau des tours 2003

④Vitovska / Nicolini 2010

⑤Merlot / Lucy Margaux 2016
(メルロー / ルーシーマルゴー)
日本ではまだ珍しい、オーストラリアのワイナリー「ルーシーマルゴー(アントン ファン クロッパー)」のビオワイン。果実味の凝縮感が特徴的なメルロー100%だが、まるでロゼワインのように淡くちょっとくすんだ色合いで、心地いい酸が馴染む味わいなのは、自然な製法を大切にしている、自然派ワインの第一人者・ルーシーマルゴーならでは。希少なルーシーマルゴーを、イベントに合わせて大量の本数集めてしまうのだから、敏腕大橋ソムリエの実力がうかがえる。

⑥Il Frappato / Arianne Occhipinti 2014

⑦Bobby’s – Schiedam Dry Gin
(ボビー クラフトジン)

〈イベントを終えて〉
料理人としての修業時代を、長くフランス・パリで過ごした日本人料理人の渥美創太氏が、日本に帰ってきて日本の食材や酢で表現する料理とはいったいどのような可能性を秘めているのか。フランスで得た技術や知識や経験を、そのまま日本に持って帰ってくるだけでは意味がない。新たな表現法をもってそれらが日本で昇華された時、日本で生まれ育った我々が感じるべきものとは。そう言った、多様な価値観を料理というツールを通して体感することが、こういった限定コラボイベントの醍醐味である。渥美創太シェフの今後の活躍からも目が離せない。

【取材・撮影・文】濵本亜沙子

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