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『cainoya』塩澤隆由

九州日本の南端、鹿児島にありながら、客単価4万円、お客の9割が県外からわざわざ訪れるという異色のイタリアン『cainoya』。メニューはおまかせコース2種類のみで、ワインもペアリングが基本。お客全員がコンサートの様に決まった時間にスタートするという独自のスタイルを貫いている。自家栽培の無農薬野菜や、ガストロバック等の最新機器を駆使することでも知られる塩澤シェフの経営哲学や、現在に至るまでの決して順風満帆ではない道のりを語っていただいた。

Pick up topics
1.地産地消ではなく個性、不変ではなくオリジナル性が唯一無二の味を生む
2.憧れて、憧れて、辿り着いた「NOT THE SAME」の境地
3.地方にこそ、ポケットコンシェルジュの仕組みが必要

 

地産地消ではなく個性、不変ではなくオリジナル性が唯一無二の味を生む

―――塩澤シェフは、鹿児島の和食店の3代目としてお生まれになったのでしたね。

1931年に祖父が創業した「甲斐乃家」は、洋食も和食もある、定食屋のような存在でした。それを東京で修業した父が引き継ぎ、僕自身は高校生の時に、父の和食店でアルバイトをはじめました。その後、だんだんと料理に熱が入ってきて、お店の空いた時間でランチや、深夜のパスタ屋をやるようになりました。料理本や文献はたくさん読んだけれど、やっぱり本場へ行って勉強したいという気持ちが強くなり、何度かイタリアへ渡ってホームステイで家庭料理を学んだり食べ歩いたりしました。イタリアから帰国してからしばらくは、日本でイタリアそのままの味を、と躍起になっていたのですが、日本とイタリアでは素材も違いますし、だんだんと日本の風土に合ったイタリアンを目指すようになりました。

cainoya

―――いまでこそ予約困難な人気店ですが、ここに至るまでには苦労もあったとか?

12年前、ここでレストランを始めた当時は、要予約を謳っていることに対してお客様に「ランチも予約しなければならないんですか」と言われるくらい(笑)。鹿児島でランチも要予約だったのは、うちが最初だったかもしれないですね。サービス料も同じ。僕も昔は、他の店を食べ歩いていてサービス料ってなんだろうと思っていましたが、実際にお店を開業してみると、必要な仕組みなんだなと実感しました。そんな地方だった場所で、ここまでやってくるまでにはいろいろなことがありました。

―――最初から順風満帆だったわけではなかったのですね。

存続の危機は何度もありました。厄年の頃は、厄払いで神社に5000円払うお金も本当になかったですから(笑)。そこで、このままでは潰れると思ってスパークリングワインの飲み放題を始めたのですが、常連さんに反対されたのです。「ここにまた今後来るために、毎日頑張ろうと思える。ここはそういう店だから、安売りはするな」と。でも、やっぱり経営的には大変でした。借り入れがあるから店を閉めることもできないし、秋までやってダメだったら、居酒屋っぽく方向転換するしかないと思っていたのですが、気が付けば秋頃には安定してきていてやれるんだと確信した。今日はお客様が1組しか来ない、と思うのは自分たちの都合で、そのお客様にとっては、前から楽しみにしている特別な日なわけで。そう思って来店してくれるお客様が1組でも来てくれればいいのでは、と思えるようになりました。

―――予約時間を一斉スタートにしたり、おまかせコースのみに絞ったのも、その頃からですか?

どうせダメになるなら、やりたいことをやろうと思って(笑)。最低限の人数で経営していたので、自分が本当に作りたい料理を出すには、お客様の来店のタイミングを合わせないと不可能だと考えたのです。本当はコースも2万円1本に絞りたかったのですが、そうすると食材ロスが大きくなってしまう。僕は野菜を育てていることもあって、できるだけ食材は捨てたくない。そこでコースを2本立てにして、ランチやお弁当も出すことにしました。

cainoya_chef

―――2万円のコースを出すイタリアンは、全国的に見てもほとんど他にないですよね。

個性を持った店にしないと、これからの時代は生き残っていけないと思っています。ここは鹿児島ですが、銀座や東京の一等地に負けない、それ以上の仕事をしている自負はあります。うちに来てくださるお客様は、他で食べられないものが食べられるからと、交通費や宿泊費をかけて来てくださいます。2万円のコースを作ったのは、もともとお客様から「もう少し価格を上げたら」とアドバイスを受けてのことでした。同業のシェフ仲間からは、「2万の壁はあるよ」と言われてとても悩みましたが、常連のお客様に「2万円のコースを作って挑戦するのと、1万円のコースだけにして毎日満席にするのと、貴方はどっちがいいの」と言われまして。経営的には後者の方が安定しますが、そんな店は日本中にどこにでもあるから面白くないなと自分でも思いました。料理で2万、ワインペアリングを含めると一人4万です、さらにウチは銀座とは違い飛行機や新幹線代やホテル代もかかりますからある意味銀座より高いかもしれません(笑)。それでも通ってくださる方々が増えています。遠回りしたけど、いまこうやって銀座とかと同じ価格で、鹿児島で勝負できる様になったから。

―――cainoyaの料理は、ガストロバックというイメージがあります。これもこの頃から?

例えば今日の料理には、ジャガイモやタマネギが使われた一皿がありますが、どんな料理でもそう、食べて、これ原価幾らだ??って思わせたらダメなんです。キャビアや黒毛和牛、雲丹といった見るからに高級食材なのではなく、普通の食材がこんな料理に!?となるから、食べ手は感動するわけです。だから僕は、高級食材同士をかぶせ合わせるのも大嫌い。例えば、冬の料理で、安納芋のベシャメルに、菊芋と卵黄のソースを合わせたものがあります。これにはトリュフも使いますが、それもあくまで主役の芋を引き立てるためのものです。

昔は、本を見たりして、こういう料理を作ろう、と思って食材を仕入れていたのですが、いまは完全にオリジナルの料理が多くなっています。というのも、少し前まではトリュフすら買えない時期もあって(笑)。仕入れができないから、畑にある食材をいかに使うかと考えるようになりました。名物となったビシソワーズもクリスタルサラダも、そうして生まれたものです。クリスタルサラダに関しては、畑の野菜を使いきれないことから、昼も夜も、価格帯問わずに食べられる料理を考えたら、サラダかなと。最初は、シャーベットのようにお口直しのサラダとして出していたので、料理の途中にお出ししているんです。

―――そうした料理をおまかせコースとして組み立てる上で、大事にしていることはありますか?

僕は旨い料理を作るのが仕事だから、日本中からお客さん呼べる店にならなくては、とつねに考えています。そのためには、地産地消ではなく個性、不変ではなくオリジナル性が大事だと考えています。もちろん、季節のスペシャリテに関しては、お客様みんながそれを楽しみに来るので、きらしてはいけない。過去の料理であっても、そのシーズンの最初に出すときは、やっぱり緊張しますけどね。

よく皿数が多いね、とも言われますが、それだけ食べさせたい料理があるから。実際に3~4年前は、多ければ残せばいいのでは、と思っていたこともありますが、お客様は最後まで美味しく辿り着きたいんですよね。2万円の食事代を出すような人の中には、量を食べられない人も多いので、ポーションは調整するようになりました。ドルチェは別腹ですけどね(笑)。あとは、完成した料理を出すのがレストランだと思っているので、僕はステーキ店のように素材を見せることはしません。知ってほしいことは、Facebookなどで伝えるようにしています。

憧れて、憧れて、辿り着いた「NOT THE SAME」の境地

―――塩澤シェフの独自の世界観は、どのように培われていったのですか。

日本中に繁盛している飲食店はいくらでもありますが、地方で『cainoya』のような単価でやっている店はないのでは、という自負はあります。かなり遠回りをしましたが、僕は鹿児島でやってきてよかったと思っています。

いまでこそこんな店ですけど、最初は僕が憧れた店の寄せ集めだったんですよ(笑)。鹿児島で初めてのリストランテをやると言うことで、開業前には東京で憧れの店を食べ歩いて、器などはどこのものかを聞いて、調べて買ったり。そうして、4~5年前からだんだん独自の世界観になっていきました。

レストランに行くと、皆さんいろいろなコンセプトを書いていますが、僕の場合は、「NOT THE SAME」。この言葉にすべてが集約されています。僕は僕であって、他の誰でもなく、どこにも属さない。だから、誰かと比べられても困る。その考えに至るまでは、徹底的に憧れましたけどね(笑)。『NARISAWA』の成澤シェフがいらした時は流石にビビった。でもいつも通り。憧れてた多くのシェフがわざわざ食べにきてくださる。多くの地方のオーナーシェフも沢山来てくれるけど、なかでも一番憧れた人は、カノビアーノの植竹シェフ。この前食べに来ていただき、僕の料理を美味しいと言っていただいて。緊張して話せなくて、もう泣きそうでしたね。うちの店にも、東京や海外、地方のレストランで修業している料理人が来るのですが、植竹シェフのように思ってくれる若い料理人がいるのかな、って考えたりもしました。

―――そういう若い料理人たちに、どんなアドバイスをされるのか気になります。

彼らの中には、東京ではなく地元に帰っていつか店をやると言う方も多いんです。僕は、最初から料理だけで1万円とれる仕事をしなさい、と伝えています。自分たちの仕事を安売りしちゃいけないよ、と。そのために、しっかりと機械も入れて、ワインもきちんと揃えて。カウンター8席くらいで、ワイン込みで客単価1万5000~2万円の店。そう言うと若い料理人たちは、うちの県ではそんなの無理ですよ、と言いますが、僕も鹿児島で客単価1万円の事業計画書を作った時には、銀行はもちろん、周囲にも大反対されました。でも、それが逆に反骨精神となって、やってやるぞ、って気持ちになった。開業資金が足りないという方もいますが、僕もそれは同じで、食事券のかたちで寄付を募って300万集めたこともありました。開業資金に関しては、どう調達するかも大事だと思います。でも1万円のコースって、原価だけじゃないですからね、そしてそんなに甘くはないですからね(笑)。

―――店づくりに関して、ここだけは譲れない、というポイントはありますか?

若い子たちには、「お金がなくても居抜きでやるな」と言っていますね。それは、潰れる店には必ず理由があると思うからです。衛生面がしっかりしていなかったかもしれないし、厨房機器がすぐに壊れるリスクもある。安く開業できても、その後のメンテナンスを考えると個人的にはあまりお勧めできません。

あとは、お店に個性を出すためには、自分だけの厨房を作るのが大事です。開業資金が1000万円あったとして、そのうち外装にやたらお金をかける人が多いようですが、僕はまず自分の戦場にお金をかけろと言いたい。新規開業する時には融資を受けやすいですが、開業した後にお金を借りるのは難しいですし、お店を開けてしまうと、グラス一つ買い換えるのも迷うんです。僕の場合は、自分で図面をひいて厨房を造りました。そのために、開業前に『ジョエルロブション』や『イルギオットーネ』に行って、幅や高さなどを聞きまくりました(笑)。だから、僕はお店の中で厨房がいちばん居心地がいいですね。

―――cainoyaは、開業した当時のままではなく、つねに進化しているイメージがあります。

開業して10年以上経ったので、壁も塗り替えましたし、椅子を張り替えたり、どんなに大事に使っても機械は寿命がきます。それがここ数年で一気にきて厨房機器も買い換えたり新たに導入したり投資は終わりません。だからお金がないんですけど(笑)、お店には、めちゃくちゃお金をかけてきましたね。直近では、すごい性能の冷蔵庫を入れる予定です。冷蔵と冷凍が切り替えられるイタリア製のもので、霜がはらないので野菜のもちもよくなります。これも、日本で初めて導入するもの。自分から情報を発信していると、いい情報が自然と集まってくるようになるものです。

cainoya_dishes

 

地方にこそ、ポケットコンシェルジュの仕組みが必要

―――塩澤シェフには、九州で最初にポケットコンシェルジュを導入していただきましたが、どのような点が決め手に?

やっぱり、まずはドタキャンですよね。うちはそこまで多くはないですが……。都会のレストランだったら、Facebookで「今日キャンセル出ました」と告知すればわりと埋まるのでしょうけど、地方で客単価4万円のレストランとなると、そうはいきません。中途半端にディスカウントすることもできないし、どうしようと思った時に、ポケットコンシェルジュの存在を知って、これはやるしかないと思いました。

―――飲食店のドタキャン問題は、本当に頭を抱えていらっしゃるお店が多いですよね。

ホームページにきちんとキャンセルポリシーなどを書いていても、皆さんきちんと読んでいるわけではないですし、お客様にキャンセル料を振り込んでくださいと請求できないですよね。実際にうちの店でも、申し訳ないと後日振り込んでくれた人は、過去に1組だけです(笑)。また、キャンセルの電話があったとしても、その電話で次の予約を確実にとるのは難しい。そうした自分たちが言いにくいことを事務的にやってくれるのが、ポケットコンシェルジュだと思っています。

とくにいいなと思うのは、完全事前決済なところ。事前精算でいただくと、例え予約した本人が来られなくなっても誰か代わりの人が来るので、席が空く、ということがない。僕らが一番精神的に辛いのは、ドタキャンそのものよりも、お客様のためにせっかく準備していたことが無駄になってしまうことですから。1組でもキャンセルがあると、本当にテンションが下がるので…。

―――お客様の予約に対する捉え方って、個人差がありますからね。キャンセルすることを申し訳ないと思わない人も、残念ながらまだまだ多いようです。

ホテルや新幹線、コンサートのチケットなどは、購入して行けなくなったら自己責任ですよね。なのにレストランの場合は、電話1本でごめんなさい、ってできちゃう。だけど、着席してから注文を決めるレストランならともかく、おまかせコースの場合は来店の数日前から準備しているんですよね。たまに、「食べていないのに払わなくちゃいけないの?」と考える方もいると聞きますが、それは「見ていないのにコンサート代を払うの?」と言っているのと同じ。とくに僕らの場合は、地元のお客様だけで埋まっているレストランではないので、地方からのお客様を増やしていかなくてはならない。県外からの予約というだけでリスクが上がるので、ポケットコンシェルジュのようなシステムはとてもありがたいと思っています。

―――県外からもそうですが、外国人客の予約もとりやすいというメリットは、確かに大きいと思います。

それも感じています。僕らの店ではまだ多くても週1組くらいですが、増える前に準備しておかなくてはと思いますね。通常のお店だったら、英語のできるスタッフがいない限り、まず電話で話せないですから。その点、ポケットコンシェルジュには外国語のできるスタッフが常駐しているので安心できます。うちの場合は、正直、日本人のキャンセルはそんなにないんです。地方にあることもあって、よっぽどのことがない限り来ていただけますが、外国人だとそうはいきません。一番ひどかったのは、ホテルのコンシェルジュ経由。お客さんが来ないからとホテルに連絡先を聞いても、プライバシーなので教えられません、と言われてしまい、それで終わりですから……。

―――ポケットコンシェルジュは、地方の飲食店にも必要性を感じますか?

たぶん、地方の店でうちほどポケットコンシェルジュを使っているという店は他にないと思うんです(笑)。それは、これからの時代は、地方にこそポケットコンシェルジュが必要だと思うから。事前決済の流れがレストランにも来る時代は、まもなくだと思っています。誰かがそれを先陣切ってやらなければならないのなら、リスクを負ってもうちがやろうと。地方のレストランは、全国に知ってもらうことも大事だから、知名度を高めるためにも有効だと思います。

ポケットコンシェルジュは、世の中の流れよりちょっと早いかもしれないですが(笑)。前例のないものだし、クレジット会社と提携してやるのは本当に大変だったと思うんです。でも、いまは新幹線も飛行機も事前にネット予約が当たり前になってきているので、飲食店もその流れに合わせるだけ。レストランでの支払いもスマートで、お客様もお会計のタイミングを計らなくていいから楽だと思うんです。これから新しくオープンする店は、客単価1万円を超えるなら入れるべきじゃないかなと思いますね。開業前や開業したて、ドタキャンに悩まされてるレストランさんによく、ポケットコンシェルジュを紹介していますよ。SNSにキャンセル出たから食べに来てくださいとか、描きたくないじゃないですか。

―――今後のcainoyaについて教えてください。

おかげさまで店の外の仕事も順調で技術指導などを手がけています。これまで蓄積したノウハウを伝えています。cainoyaは一般的なスタジエ(研修)は受け付けていません。独立前のオーナーシェフさんには有料でこのシステムを教えて買って頂きます。これも誰もやってこなかったとですよね。大きなプロジェクトも進めています。年明けごろにプレスリリースされるのではないかと思いますのでお楽しみに。また賛否両論巻き起こるでしょうね(笑)。

 

〈シェフからの一言〉
コースで2万円、ワインを含めて4万円というと、決して日常的に通えるお店ではないと思います。だからこそ、料理もワインもサービスも、ここでしか味わえないような体験になるように日々精進しています。決して万人受けするお店ではありませんが、ぜひ鹿児島まで足を運んでいただけたら嬉しく存じます。


【聞き手】石田誠也
【文】笹木理恵
【写真提供】cainoya


『cainoya』へのアクセス〉
鹿児島中央駅からタクシーで約15分

cainoya_内観繁華街の喧騒から少し離れたエリアで、ゆったりと落ち着いた時間を楽しめる
cainoya_内観シェフが高いセンスで選ぶ器やグラスは、料理の美しさを倍増させる
Restaurant Data
店名: cainoya
住所: 鹿児島県鹿児島市城山町2-11 ドルチェヴィータ B1F
営業時間: 【ランチ】
12:00~15:00
12:00開場、12:30一斉スタート【ディナー】
18:30~23:00
18:30開場、19:00一斉スタート
定休日: 月曜・火曜
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