Top chef interviews, 特集

名店『すきやばし次郎』から独立後、常に進化し続ける、新進気鋭の鮨職人

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「日本の食文化を世界に発信していく」。そんなポケットコンシェルジュのビジョンから始まったインタビュー特集です。日本で活躍する一流レストランのシェフを取材し、レストランに対する思いや、料理人としての考え方などを紹介していきます。

第二回

『鮨ます田』 増田 励

今や世界中で名が知られる、鮨の名店『すきやばし次郎』。ここで9年間修業した増田 励氏が、2015年、東京・表参道にオープンしたのが『鮨ます田』だ。客席は、カウンターが6席、6名用の個室が1室で構成。17時、19時、21時からスタートする3部制で、連日満席の人気。ミシュランでも二つ星を獲得し、海外からのゲストも全体の6~7割を占めている。2016年10月には、京都に2号店の『鮨 和魂』もオープン。自店のみならず、弟子の育成にも力を入れている。今回は、店主・増田氏から修業時代に学んだことや、これからのビジョンなどについて語っていただいた。

Pick up topics
1. 鮨屋の大将の生き様から、さまざまな気づきを得た修業時代
2. 弟子が独立できる環境づくりを、京都で実現していく
3. 今までの常識を取っ払い、ゼロから新しいシャリに挑戦

鮨ます田_増田励氏

鮨屋の大将の生き様から、さまざまな気づきを得た修業時代

――― 若いころから鮨屋で働かれていたと聞いていますが、鮨職人を目指されたきっかけは何ですか?

高校生のころ、福岡の小倉にある『天寿し』という店で、アルバイトとして何気なく鮨屋に入ったんですね。そのときに『天寿し』の大将がかっこよく見えて、いつか自分もその大将のようになりたいなと思ったのがきっかけです。

――― 『天寿し』では、アルバイトから社員として働かれていたのですか?

『天寿し』では3年ぐらいずっとアルバイトとして働いていました。その時に鮨だけでなく料理も勉強したいなと思っていたんですね。なので、このアルバイト期間に北九州調理師専門学校に1年間通って、料理の基本を勉強しました。そのあとは、小倉にある『万惣』という和食屋さんで社員として4年ほど働いていました。後は、魚屋でも1年ぐらい働いていましたよ。ただ、いろんな仕事をしながらも、自分の夢はずっと”鮨屋になりたい”と思っていましたね。まずは、和食の腕を磨いて、そのうえで鮨も握れたら”鬼に金棒”だなと。

――― その後、上京されたんですか?

そうですね。本当は小倉にある鮨屋の『もり田』で修業する予定でした。大将の森田さんは、『天寿し』で30年ほど修業したあと独立された方で、調理師学校時代の講師だったんですね。そこで森田さんに修業させて欲しいとお願いしたら、「本場の一流の江戸前寿司を勉強しに、東京に行きなさい」とアドバイスをいただいたんです。

――― 東京での修行先は森田さんの紹介ですか?

いえ。上京してからは、修業先を決めるために、東京の鮨屋を30~40店ほど食べ歩きました。当時24歳でお金もあまりなかったんですけど、まあ、自己投資ですね。

――― そこで修業先に選ばれたのが、『すきやばし次郎』ですね。

そうです。食べ歩いた中で僕が一番美味しいと感じたのが『すきやばし次郎』でした。『すきやばし次郎』は、当時は今ほど有名ではなく、僕自身もそのころは知りませんでした。ただ、働こうと思ったときは、人数が足りているとのことで、すぐには入れなかったのですが、3ヶ月ぐらい経って店から連絡があり、修業をスタートしました。

――― 『すきやばし次郎』といえば、一人前になるまで修業期間が長いという話をよく聞くのですが、実際はどうなんですか?

初めのころはひたすら皿洗いや掃除でしたね。実際に任せてもらえるようになるのは人それぞれかと思います。僕の場合は、和食屋と魚屋にいた経験があるので、内容にもよりますが1年ぐらいで仕込みの手伝いをすることができました。ちなみに、お店で出しているものを、いきなりやらせてもらえるというのはなかなかないですが、調理の練習に関しては初めのころからやらせてもらえる環境でした。自分で食材を買ってきて、休み時間に魚を捌いたり、鮨を握ったりして、先輩に食べてもらって、これはダメ、これはこうした方がいいという繰り返しですね。それで、合格をもらえたら店で出している鮨の仕込みの手伝いができるといった感じです。

――― そうなんですね。『すきやばし次郎』のドキュメンタリー映画、「二郎は鮨の夢を見る」が一躍話題になりましたが、その中で、「玉子焼きを焼かせてもらうまで10年かかると」言われていたので、もっとかかるものだと思っていました。

あの映画は僕も少し出ているのですが、確かに玉子焼きは何百枚と焼いていかないと難しいですね。僕自身は任せてもらえるようになるまでに5-6年かかりました。なぜこんなに時間がかかるというと、玉子焼きは砂糖の分量以外にレシピが決まってないんです。というのも、玉子焼きに使う山芋があるとして、上の方と下の方では粘りや味が違うんですよ。上の方の山芋で作った玉子焼きが100点だったとすると、下の方の山芋を使ったときには、同じ分量で100点にはならない。その山芋に対して、微妙に調味料の分量を変えないと100点にはならないんです。特に山芋とエビのすり身の塩梅が難しいですね。あとは、焼き時間に関しても、昨日は40分で焼けたのに今日は1時間経っても焼けないということがあるので、それを習得するには何百枚と焼かないといけないので時間がかかるんです。ちなみに、一番習得が難しいのは海苔を焼くことですが。

――― 海苔ですか!? 映画でも、炭火で海苔を焼くシーンは印象的でしたね。

そうですね。あれを見てたら誰でもできそうですが、かなり難しいですよ。炭火で四方から焼いていくのですが、実際やってみると真ん中に焼きむらがあったり、端が焦げていたりするんです。これを機械で焼いたかのようにキレイに仕上げるにはかなりの年数がかかりますね。

――― 小野二郎さんから教わったことで、一番印象に残っていることは何ですか?

仕事に対する姿勢というか生き様というか、とにかくプロフェッショナルなところですね。正直な話、鮨って1年もあれば誰でも握れるようになると思うんですよ。ただ二郎さんは91歳になった今でも(2016年11月、取材時)、お客さんにどうやって美味しく食べてもらおうとか、どうやったら美味しくなるんだろうとかを、常に考えていらっしゃるので、その姿勢が本当にすごいと思います。それが今の『すきやばし次郎』の評価に繋がっているんでしょうね。世の中いろんな職人さんがいて、お金のためにやってる方もいると思いますが、二郎さんは、儲けようという感覚がないんです。仕事をするのが好き、お客さんの喜ぶ顔が見たいとか、ようは昔ながらの職人さんですよね。なので、私自身もそんな二郎さんのような職人さんになりたいなと思っています。

鮨ます田_店主

お客さんにどうやって美味しく食べてもらおうとか、 どうやったら美味しくなるんだろうとかを、常に考える。 その姿勢が本当にすごいと思います

弟子が独立できる環境づくりを、京都で実現していく

――― 『すきやばし次郎』で9年間修業されて、そこからどういうきっかけで独立に踏み切ったんですか?

35歳には独立しようと考えていました。『すきばやし次郎』で修業を始めて、だいたい8年ぐらいたったときに、独立への想いが強まってきたんです。辞める一年前には二郎さんにその旨を報告して、1年で下の子をできるだけ成長させますし、1年後には辞めさせてくださいと筋を通してきました。

――― 独立するときにこういう店をつくりたいという構想はあったんですか?

目先の部分でいくと、内装とかもそうですが、「THE 鮨屋」というところに捉われることなく、『すきやばし次郎』のいいところを上手く取り入れながら店をつくっていくといった感じです。あと、長期的な視点でいくと、『鮨 ます田』から弟子が独立できるような環境づくりを目指しています。そのような環境になれば幸せですね。

――― 実際に、京都に2号店もオープンしてますよね?

『鮨 和魂』ですね。ここは、『鮨ます田』の2番手に任せている店です。店舗は「フォーシーズンズホテル京都」の中にあります。出店のきっかけは、ホテルの筆頭株主さんが『鮨ます田』に食べに来てくださって、お声がかかった感じです。元々は会議室にする場所だったみたいですが、スペースがもったいないので、だったら飲食店を出そうといった経緯ですね。『鮨 和魂』は、厨房も広いので、ここが人材育成のラボのようになっています。毎週日曜日は僕も顔を出しているのですが、僕自身が調理をすることはほとんどなくて、従業員とコミュニケーションをとって、もっと会社としてやって欲しいことなどをヒアリングすることに力を置いてます。

鮨ます田_横顔quote05_720

今までの常識を取っ払い、ゼロから新しいシャリに挑戦

――― 鮨の味づくりの部分で意識していることはありますか?

基本的には『すきやばし次郎』で学んだことがベースになってます。例えば、うちは夜3回転する店なんですが、1回転ごとにシャリを炊くですとか、シャリの温度管理を徹底したりとかですね。あとは、光り物であれば、冷蔵庫で冷やすのではなく、冷凍庫でさっと冷やしてお出しするだったりとか、常温のもの温かいもの、冷たいもの、さらに冷たいものと4段階の温度に分けて、味わいの変化を工夫しています。

――― とくに工夫されているのは、やはりシャリですか?

そうですね。シャリに使う米は『すきやばし次郎』と同じ米屋さんから仕入れているのですが、厳選した米をブレンドしていて、炊き方、温度、酢の加減、炊いた後の温度管理すべてにこだわっています。特に最近では、1週間まるまるお休みをいただいて、シャリの研究しているんですよ(2016年11月、取材時)。今まで自分の中で常識をしていたものをすべて取っ払って、いろいろな部分に疑問を持ちながら、炊き方、酢の加減などすべてを変えていこうと思っています。これをやることで、自分も楽しいし、スタッフもすごく勉強になると思います。仕上がりは乞うご期待ですね。

――― ありがとうざいます。最後に今後の展望を教えてください。

今後の店舗展開に関しては、最近ではいろいろなところから出店の依頼があったりしますが、闇雲に出店するつもりはないですね。僕自身、お金儲けのために店を出していくという気持ちはまったくないんです。ただ、例えば『鮨 和魂』の2番手、3番手4番手が、腕はあるけど活躍する場がないという状況になれば、その子たちが独立できる場を設けてあげたいと思っています。あと、人材育成という意味では、例えうちで1年しか修業しなかったとしても、僕の教えた言葉の中に何か気づきがあって、この後の人生にプラスになるようなアドバイスができたらいいなと思っています。だから、今後もどんどんいろんな人と関わっていきたいですね。

鮨ます田のカウンター

〈大将からの一言〉

インタビューの中でも紹介しましたが、2016年11月7日から、新しいシャリでお鮨を握っております。今までよりも美味しいシャリができあがりましたので、ぜひご賞味ください。また、2017年以降はコースの構成と料金を変更いたします。さらに進化した『鮨ます田』を、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

【聞き手・文】白石直久
【撮影(人物、ロケーション)】ポケットコンシェルジュ編集部
【写真提供(カウンター)】鮨ます田


〈『鮨ます田』へのアクセス〉
 

東京メトロ「表参道」駅から徒歩2分。表参道駅B1出口の階段を上がってそのまま青山通りを真っ直ぐ進むと、10mほどで骨董通りへ入る。

鮨ます田_道案内1
道の左側を直進して一つ目の角を左に曲がる。
鮨ます田_道案内2すぐ右手にあるビルのエレベーターで降りた地下一階。
Restaurant Data
店名: 鮨 ます田
住所: 東京都港区南青山5-8-11 BC南青山PROPERTY B1F
営業時間: Lunch11:30(L.O14:00)
Dinner 17:00~(L.O23:00)
定休日: 日曜日・祝日