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いま活躍するレストランのシェフやスタッフの方々に、これからの店づくりや「人財」育成の環境に対する考え方などを取材し、レストラン業界に「プラス」の影響を与えていくことを目的としたインタビュー記事です。

第1回

『傳』料理長・長谷川 在佑 /スタッフの方々

時代は「ニューノーマル」と言われ、大きな変革の年となりつつある2020年。人々の生活様式が変わり、レストランの在り方を見直すお店が増えてきているなか、この現状をどのように乗り越えていくのかが大きな課題となっている。特に「働く人」の需要と供給の観点では、いかに料理人やサービスマンにとって働きたいお店であるかが、重要な要素の一つだ。第1回目は、国内外の飲食人から、いまもなお注目を集め続けている『傳』の料理長・長谷川在佑氏とスタッフの方々にインタビュー。「人財」育成のポイントや働くスタッフのやりがいなどについて語っていただいた。

About Restaurant
『傳』(東京・神宮前)

2008年、東京・神保町にオープンして以来、国内外のゲストに愛され続けている日本料理店(2016年12月、東京・神宮前に移転)。家庭料理の温もりが伝わるような新しい日本料理のスタイルを築き上げ、毎年開催されている世界、そしてアジアの「ベストレストラン50」で、日本勢のトップに輝いている。また2017年には、同イベントにて、おもてなしの姿勢を評価する「アート・オブ・ホスピタリティ賞」も受賞し、接客に関しても世界から注目を集めており、有名グルメガイドでは二つ星を獲得している。
Pick up topics
1.スタッフが輝く店づくりと雇用を生み出す新業態
2.『傳』のサービスの礎となる女将のホスピタリティ
3.「お客様のことを考える」スタッフがチームを支える
4.お店からのメッセージ(スタッフ募集について)

 

 

スタッフが輝く店づくりと雇用を生み出す新業態

―――『傳』で食事をさせていただくと、料理がおいしいだけでなく、接客や空間に心地良さを感じます。そのような店づくりは、チームとして動かないとなかなかできないことだと思いますが、スタッフとのコミュニケーションなどで気をつけていることはありますか?

料理長・長谷川在佑氏(以下、料理長)  私が気づかないことに気づけるメンバーがいることが大切なことで、自分が決めたことが絶対と思わないようにしています。私より優れた人がチームにいれば良いので、一人の人間がすべてのことをできる必要はないかなと。

お客様に対しても同じ考えですね。自分が自信のある料理を提供しても、その味が絶対というわけではなく、お客様からフィードバックをもらい、こちらからも考えていることをお客様に言えるような関係性を作ることが大切だと思います。

―――スタッフを採用するなかで、大切にしているとこはありますか?

料理長 私は基本的にどこの店で修業していたかは見ていません。これは日本独特の視点で、海外だとどこで修業したかはあまり聞かれないと思います。「君はどういう人間なの?」という感覚が強い。何をしてきたかのほうが、どこでやっていたかよりも大切だと思います。

昔、うちで面接した例でいくと、「有名店で修業はしてないです。でもお母さんの料理を手伝ってました」という子がいて、やはりそういったタイプのほうが、いい料理を作ったりいいサービスをするんですね。

調理スタッフの面接では、まずは料理人になることに対して話を聞きますが、私は初めに料理人にはならないほうがいいと伝えています。料理人として生計を立てるのはそんなに簡単ではない、続けていくことは難しいということを理解して欲しいんです。

うちのお店で働くことは楽しそうに見えると思います。実際に楽しいのですが、そこには責任があるから楽しいわけです。その責任をしっかりクリアしていかないと続かないと思います。「自分が何をしたかよりも何をしてあげたいか」という感覚が強い人のほうが良いですね。うちはチームという感覚が強いので、調和を取ったり、周りをしっかり見たり、物事の大変さを分かってくれたりする子のほうが多いです。

『傳』料理長・長谷川在佑 氏

―――『傳』では、長く働かれている女性スタッフが活躍していますが、それは意図的に採用されているのでしょうか?

料理長 まったく、そんなことはないです。確かに、うちの場合は女性のほうが長く働いている子が多いですね。たまたま根性座っている子が多いのですが、普段から感じるのは、女性のほうが人のために何かをしてあげようという気持ちが強いですね。男性は、食に対しての想いやスキルを学ぶことで成長を感じる子が多いです。うちの女性スタッフは、それぞれに、お客さんがファンとしてついているので、私一人でお客さんを呼んでいるわけではないんです。

レストランは、自分がどういう人間かをお客さんに知ってもらえる場だと思っていて、それによってスタッフにファンがつく。『傳』というお店の一員でありながら、ある時はそのなかでもメインの存在になれるという環境が理想です。ミュージカルで例えるなら、エキストラが全員で魅せるところがあり、時にはその中の一人にスポットが当たる、そんな感覚です。私は「キャッツ」が好きなんですね。お客さんと一体型でやれる感覚がすごく好きだし、感動が何倍にもなると思うんです。

新しい料理人をサポートするコラボレストラン

―――昔からさまざまお店とコラボディナーを開催したり、海外に行ったりと、先駆け的に新しい取り組みをされていると思いますが、そのような考えに至ったきっかけはありますか?

料理長 そこまで深く考えていなくて、やりたいと思ったことはやる、やりたくないと思ったことはやらないですね。私がやりたいと思うことは、自分がやっていて楽しい、チャレンジできる、お客様が喜ぶという軸があって、新しいことを始めることで、それが刺激となって人を成長させていくと思います。

海外に行くことに関しては、一度事例を作ってしまえば、他のお店もチャレンジしていけるのでは、という考えが根底にあります。特に日本料理でいくと、この日本という国には、伝統的な日本料理の文化をしっかりと受け継いだお店が数多く存在するので、それがあるからこそ『傳』のような新しい形の日本料理店が営業できているのかなと思います。

特に海外のお客様に関しては、伝統的な日本料理の作法など、難しいイメージがあると思います。そこで、私たちが日本料理の間口を広げ、より親しみやすいスタイルを提案することで、まずは興味を持っていただく。興味を持っていただいたなら、次のステップで伝統的な日本料理店に足を運んでもらえたらいいわけです。

―――いろいろなシェフと交流がある中で、『フロリレージュ』の川手シェフと新しいお店をオープンすると伺っています。どのような経緯で出店することになったのでしょうか。

料理長 川手シェフとは、『傳』のオープン当初から付き合いがあるのですが、オープンから3年ぐらい経ったころに、当時はどこのお店もやっていなかった異なるジャンルのコラボディナーを開催しました。何か新しい形を打ち出していくと、他のお店でもやり始めるきっかけにもなっていて、同時に川手シェフとのコラボは面白いなと感じたんです。

そんな中で、私たちがこれから新しい料理人の方々に何かサポートできることはないかと考えたときに、お店をつくって働く機会を提供したり、お客様を呼んで、レストランの在り方というものを感じてもらったり、そういう次のステージとしてもいいんじゃないかなと。

―――具体的にどのようなコンセプトのお店になるのでしょうか。

料理長 店名は『デンクシフロリ』で、串のメニューをメインにした16〜18席ぐらいの店です。串って、1本でいろいろなものを組み合わせられますよね。いろいろな人たちがタッグを組むと相乗効果を発揮するように、1本の串でフレンチと和食が融合して、串の具材が合わさることで、新しい味になる。そして、人間同士が隣同士で交わるというイメージも含んでいます。日本人だったり海外の人だったり、男性だったり女性だったり。そういった重なりやつながりもコンセプトの一つです。

単純にレストランができるだけではなくて、いろいろなつながりができることで、新しいことが生まれます。これから2年後3年後、コラボレストランがメディアで特集されているかもしれませんが、まずは私たちがやってみて失敗したら失敗したで、みんながやらずに済むわけなので。良ければ良いで、このレストランを通してお客様が広がっていけばいいと思います。

―――今後、新たに取り組んでいきたいことなどがあれば、お聞かせください。

料理長 最近1番考えているのは、これから料理人になりたい方たちや地方にいる料理人たちとコミュニケーションをとって、私が感じたこと経験してきたことをみんなに伝えていきたいと思っています。

いまのご時世、海外旅行はなかなか難しいと思いますが、ある程度落ち着いてきたら国内旅行をする方は増えてくると思います。そんな時に、地方に『傳』や『フロリレージュ』のような店ができることで、そこを目がけて日本中を旅する人たちが増えると地域活性化につながると思っていて、そんな社会に日本がなればいいなと思っています。

    

『傳』のサービスの礎となる女将のホスピタリティ

―――普段、女将さんのご経歴について伺うことがなかったのですが、いままでどのようなキャリアを積んでこられたのでしょうか。

女将・長谷川えみ氏(以下、女将) 元々、接客の仕事が好きで、飲食の仕事をする前はアパレルの仕事をしていました。飲食を始めたきっかけは料理長です。高校の時の同級生で、付き合いはすごく長いですね。料理長は高校を卒業してからすぐ修業に入っていて、昔から自分で何かを残したいというのが強い人でした。いずれは一緒にお店をやりたいと口にしていたので、私も飲食の道に進むんだろうなと考えていました。そこで、料理長が修業していた『うを徳』の女将さんにお願いをして、料理長が『うを徳』をあがったあとに、私が女将さんのもとで修業を始めました。

そのときは、結婚してすぐの24~25歳ぐらいだったので、飲食業界に入ったのは遅いんです。初めは接客は好きだけど飲食の仕事は難しくて向いていないと思っていました。ただ、やってみたらやりがいもありますし、面白いなと思い始めて。自分で、お客様にはこのような準備をしていきたいなと考えられるようになっていました。

『傳』の女将・長谷川えみ氏

―――食事に伺うたびに、女将さんのホスピタリティを感じるのですが、日々の営業で、どのようなことを意識されていますか?

女将 『傳』にいらっしゃったお客様皆さまには、「おうちに入ってきた感覚を提供したい」という気持ちが強いです。お客様にリラックスした状態でお食事していただくのが1番だと思いますので。

接客に関しては、決まったマニュアルというものがあまり好きではなくて、お客様がその時にどう感じているのか、気分や体調などによって、いま何を欲しているのかを汲み取るようにしています。それを見抜けるのが1番いいんですけど、分からない時は聞いていますね。

―――結果としてそのような意識の積み重ねが「アート・オブ・ホスピタリティ賞」につながっていると思いますが、女将さんのセンスだけではなく、チーム全体で実践できていると思います。その点に関してスタッフに伝えていることはありますか?

女将 まず、自分が感じたことはスタッフにも共有して、スタッフも各々が感じたことを、みんなに共有していく環境づくりが重要です。私が感じたことを口頭で指示をしても、当の本人が同じことを感じていないと行動できないと思うんです。

初めに、背景にある気持ちの部分を伝えて、例えば、「外の天候によってお店に入った時にお客様はどういう印象を受けるかを、自分でちゃんと感じ取って」などと指示をしています。そうすると、次第にそれぞれのスタッフがお客様の気持ちの汲み取り方に気づき始めます。営業中も同じことが言えると思いますので、そういったきっかけをつくってあげること大切です。

『傳』では新入社員で入ってくるスタッフがキッチン希望であっても必ずホールを体験させています。キッチンで料理を作ることは、ただ料理をするだけではダメだと思うんです。どのような気持ちでお客様にサービスをすれば良いかに気付くことは、ホールをやることでたくさん学べると思うので、それを踏まえてキッチンに入ってもらいたいなと。

店内に飾られている「ベストレストラン50」の盾やトロフィー。特に、2017年「アジアベストレストラン50」の"アート・オブ・ホスピタリティ賞"の同時受賞は、日本勢初となる快挙となった。

    

「お客様のことを考える」スタッフがチームを支える

―――『傳』で働こうと思ったきっかけは何でしょうか。

望月 礼 氏(以下、礼さん) 調理師学校在学中に料理長と知り合い、卒業のタイミングで『傳』(当時、神保町)がオープンして、お声がけいただいたのがきっかけです。当時は、いまのようなお店に成長するとは思っていませんでした。

『傳』のオープン時からキッチンを担当する望月 礼 氏

山口典子氏(以下、典子さん) サービスの学校を卒業後にホテルで働いていたのですが、もっとお客様に寄り添った接客がやりたいと考えていたころに、『傳』に食事に行ったんです。そこで、スペシャリテの一つの「畑の様子」を食べたとき、この料理をお客様に提供したいと思っことがきっかけで、入社しました。

『傳』スペシャリテの1つである「畑の様子」。契約農家のおまかせで仕入れた色とりどりの野菜を、蒸したり、だしを含ませたりすることで、野菜本来のおいしさを引き出している。

Joyeta Ng(以下、Joyさん) 入社前、いとこが日本に住んでいて、私がロンドンに住んでいたころ、いとこと一緒に『傳』に食事に伺いました。料理もおいしく、すごく楽しい経験ができたのと、毎日『傳』の料理が食べたいと思ったので、ロンドンの職場を退職して入社することにしました。

―――長い間『傳』で働いていらっしゃると思いますが、普段どのようなところにやりがいを感じていますか?

礼さん お客様が身近に感じられ、常連様も多いので、すごく応援されている感覚があって、それが働くことの喜びになっています。

典子さん 『傳』は、あまり大きいお店ではないので、マニュアルやルールというものがなく、基準を持たずにお客様にあったものを考えてサービスできるのが良いところで、それが私のやりたかった接客でした。

一般的な会社は、それぞれのポジションがあってそれぞれの仕事の役割があると思いますが、『傳』ではキッチンもサービスもそのような隔たりがないです。キッチンの研修生でも自ら料理を作って、料理長に見てもらってコースの一品に入れることができた子もいますし、サービスでも、私も初めは料理を提供するだけでしたが、慣れてくるとお客様それぞれにドリンクのペアリングを提案したり、電話予約やメールの管理をさせてもらったりなど、自分がやりたいとこがどんどんやれるチャンスがたくさんあると思います。

ほかにも、お客様の予約状況を見て、来週は常連様だからこういうお酒を注文しようとか、お祝いだからメッセージカードを作ろうとか、お客様に対して考えてやろうとしたことは、料理長も女将さんも了承してくれることが多いです。

神保町時代からホールを担当する、サービスマネージャーの山口典子氏

Joyさん 常連さんが多いので、お客様に会いたいという気持ちが常にあります。特に海外のお客様に関しては、友達を家に呼んでいる感覚があって、その空間の中で、お客様に合わせた料理やサービスが提供できるところに、やりがいを感じます。

私は、海外の研修生を教えることが多く、いままで10ヵ国以上の研修生が学びに来ていますが、日本の食文化をどのぐらい理解しているのかによって、説明の仕方を変えて、うまくチームに溶け込めるかを考えながら仕事をしています。その積み重ねが、自分の成長につながっていると思います。

―――長谷川料理長をリスペクトしているところはありますか?

Joyさん お客様のことをすごく考えているところですね。お客様の食べているときのリアクションを見て次の料理を変えることもあるので、それを見極める力がすごいと思います。

キッチンを担当するJoyeta Ng氏

典子さん お店がオープンしたてのころは、海外のお客様が多くいらっしゃるとは思っていませんでした。当時は、料理長もまだ海外に行ったことがない状態でしたが、月日が経つにつれて海外のお客様が増えてきて、海外に皆んなで仕事に行ける機会が増えてきて、お店にもいろんな国の方に来ていただけるようになったという流れを見てきました。そのように、お店を現在の認知度まで持っていったことは、本当にすごいと思います。

―――最後に、これからの意気込みをお聞かせください。

礼さん オープン当初のことを思い出すと、現在は想像してきた以上のお店になっていて、期待していらっしゃるお客様も多いと思います。期待を裏切らないこともそうですが、その中で自分がお店の役に立っていると実感できることは、しっかりやっていきたいと思います。

典子さん 『傳』で働くことによって、お客様一人一人と向き合う時間がたくさんできて、予約から始まり、来店していただいてお帰りになるまで、一つのストーリーがすごくあるなと感じています。予約の電話を受け、どのような気持ちで来店いただくのかを知り、来店いただいてからお客様のタイプを把握して、サービスのやり方を考えて、お帰りになるときに「また来たいです」と言われて次の予約をしていただくと、やっていて良かったなと思います。これからも、お客様に対してできることを常に考えながら、私自身も成長していきたいです。

    

お店からのメッセージ(スタッフ募集について)

『傳』/『デンクシフロリ』では、一緒に働くホール・キッチンのスタッフを募集しています。いままでの経験は問いません。やる気がある、お客様のことを考えられる方は、どんどん仕事を任せていく環境です。まずは気軽にお問合せください。


Facebook: https://m.facebook.com/zaiyu.hasegawa
Instagram: https://instagram.com/zaiyuhasegawa?igshid=11ln8fbrs5rh8

※SNSのメッセージにて、冒頭で「ポケットコンシェルジュの記事を見ました」とお伝えください。


【聞き手】戸門 慶
【文】白石直久
【写真(店内、サラダ)】JESTO
【写真(人物、トロフィー、ロケーション)】キミヒロ

〈『傳』へのアクセス〉

東京メトロ「外苑前」駅より、徒歩7分


外苑西通り沿いのビル1階に立地。入口には「傳」の表札はなく、ドアに同物件の旧店名である「Le Gaulois(ルゴロワ)」の文字が残されている。

 

Restaurant Data
店名:
住所: 東京都渋谷区神宮前2-3-18建築家会館JIA館
営業時間: 18:30~20:00(最終入店)
定休日: 日曜日(臨時休業あり)

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