銀座や築地から至近距離ながらも落ち着いた雰囲気が漂い、近年隠れた名店が誕生している新富町。コストパフォーマンスの高い店が多いと食通たちが通う同エリアに2014年12月にオープンし、予約のとれない人気店と呼び声高いのが『鮨はしもと』だ。
店主の橋本裕幸氏は、若干31歳にして独立を果たした寿司業界の若きホープ。福島・郡山で寿司店を営む両親の背中を見て育ち、上京後、12年にわたって蛎殻町・橘町の名店『都寿司』(現『日本橋蛎殻町 すぎた』)にて修業を積んだ。握りは小肌からスタートするなど師匠のスタイルを受け継ぎながらも、若さゆえの伸びしろを生かし、開業以来、握りもつまみも絶えず進化し続けている。ネタは、毎朝築地で目にかなったものを仕入れ、シャリは赤酢と米酢を絶妙にブレンド。料理はおまかせコースのみで、季節感を大事にした酒肴から始まる。柔らかく蒸し上げた黒鮑は、残った肝ソースにシャリと烏賊を入れて二度楽しめるようにするなど、遊びも取り入れた内容が握りへの期待感をより高めてくれる。こうした素材へのこだわりや丁寧な仕事を徹底するのはもちろんだが、何よりも橋本氏が目指すのは、「美味しく、楽しく過ごせる寿司店」であること。高級寿司店のカウンターに座ると緊張感を強いられることも少なくないが、ここでは誰もが自然体で、至福の寿司をいただける。
座り心地のよいひじ掛け付きの椅子に身を委ねながら、立派なカウンターにふと見入られる。聞くと、16年前に購入したヒバの木で、実家の寿司店で使用していたものと同じものの半分を使用しているそうだ。暖簾には家紋がデザインされ、屋号の文字は橋本氏の亡き母が描いたものだという。家族の絆を大事にした店づくりからも橋本氏の温かな思いやりが読み取れ、接待や会食、記念日に訪れれば、心に残る時間を約束してくれるはずだ。
※世界的グルメガイド東京2023年度版にて一つ星を獲得
■アクセス
東京メトロ有楽町線 新富町駅 徒歩3分
東京メトロ日比谷線 八丁堀駅 徒歩4分
JR山手線 有楽町駅 銀座口 徒歩15分