名勝「鞆の浦(とものうら)」を有する広島県福山市の玄関口・福山駅から徒歩7分の場所に、福山を代表する老舗フレンチ『ル・ミロワール』はある。オーナーシェフ・中山孝雄(なかやま たかお)氏はさまざまな研鑽を経て2003年に独立開業。多くの渡仏経験による旅、人との出会い、書物を勤勉の友とし、独学により二期連続の一つ星を獲得した実力派の料理人である。
魚介は瀬戸内海の笠岡諸島、真鍋島などからシャコ、ワタリガニ、アカアシエビ、アコウなど、野菜類も福山名産のホウレンソウ、アオダイキュウリ、イチヂクなど、時期ごとの旬の地産品を仕入れ「福山市ならでは」のフレンチを味わわせてくれる。こだわるのは塩と火入れ。そのシンプルな2つの要素で、素材の良さを究極的に引き出す。たとえば「塩をして焼いただけのマナガツオ」や「塩水で茹でただけのオマール」が官能的な香りや歯触りで、深く豊かな風味に溢れている。それらのメイン食材に対して、皿上で自然風景をインスピレーションした要素を組み合わせていくのが中山氏のスタイル。例えば「海と草の香り」をイメージした一皿では、焼いたマナガツオにエストラゴンを利かせたソースと茹でた豆を添えて表現するなど、そのひらめきは自分の内面の「無」から浮かんでくると言う。10代の頃からエスコフィエなどを紐解き、20代前半から今現在までも10数回以上のフランス各地への旅を続けた中で、さまざまな食材や人との出会いにより蓄積され続けてきた内面が鏡(=フランス語で店名の「ミロワール(Miroir)」)のように料理に映し出され、まるで「中山氏とのフュージョン」とも呼べるような独自性の高い料理群となっている。
店内は3卓のテーブルと個室のみ。アンティークの調度品が落ち着いた雰囲気を演出している。サービスでは、伝統的なフレンチレストランのスタイルを継承し、ゲストのテーブル前でクロッシュを開けたり、デクパージュをおこなったりと、「フランス料理を味わう空間」をトータルコーディネートする。『ル・ミロワール』の上品な空気感は、接待や記念日には最適だろう。ワインはボルドー、ブルゴーニュなどを中心にラインナップされ、お料理と一緒にゆっくり愉しむ時間が至福である。地方に名店あり。『ル・ミロワール』を味わうために福山市までぜひ足を運んでいただきたい。
■アクセス
JR山陽本線(岡山〜三原) 福山 徒歩5分