石川県・金沢駅から車で約10分。風情ある茶屋街・主計町(かずえまち)近くの彦三町に一つ星『鮨 木場谷(すし きばたに)』はある。大将・木場谷 光洋(きばたに みつひろ)氏が北陸の魚にこだわり、つまみと握りを合わせたおまかせコースを提供する。
『すきやばし次郎』の兄弟弟子である船橋『よしうら』や、銀座『鮨 青木』で江戸前の鮨修業をした木場谷氏。その後、故郷の富山市に帰り、実家の鮮魚店を手伝いながら、出張専門の鮨職人として腕を磨く。そして2016年、『鮨 木場谷』を開店した。鮨店の激戦区といわれる金沢に店を構えたのは「出張で鮨を握っていた頃、近くの芸子さんによく呼ばれていて、古き良き町並みが残るこの町が好きだったから」と木場谷氏は語る。
「魚種が豊富で旬の魅力が大きい北陸の魚の良さを、石川県外の方々にもっと知ってほしい」という思いから、扱う魚はマグロ以外のほとんどが地物。金沢から毎朝5時に富山の氷見や新湊の漁港へ出向き、鋭い目利きで最高の鮨ダネを調達する。「輪島、能登、富山湾と、湾内と湾外では全然ものが違うので、それぞれのいい魚を集めている。そして地物の魚は力強いものが多いので、なるべく手間をかけず、ひと手間だけ加えて提供する」という、北陸の魚を知りつくした木場谷氏ならではの仕事のしかたを打ち明ける。また魚の熟成技にも定評があり、マグロやイカ、タイなどの白身魚の絶妙な寝かせ具合が、舌の肥えた常連客をもうならせる。酢飯は、赤酢と米酢をブレンドした一種類のみを使い、鮨ダネとのバランスをとる。
日本酒は「白菊」や「五凛」など石川県のものをそろえ、氷見で造られる「SAYS FARM(セイズファーム)」のワインも置く。店内は、わらを練りこんだ土壁など、木場谷氏が5年間出張して握っていた高岡『そば 蕎文(きょうぶん)』の内装に似せたあたたかい雰囲気。のれんには、近所の書道家による屋号が書かれているなど、扱う地元の魚との相性もさることながら、木場谷氏の北陸愛が隅々にまで感じられる。そんな人情にあふれ、会話もはずむ木場谷氏の人柄に引かれ、北陸のみならず、東京都内や全国からも鮨通が足を運ぶ。カウンター9席。常連になって、おいしい表情をみせる北陸の魚を四季折々に楽しみたい鮨店である。
■アクセス
JR北陸本線(米原〜富山)「金沢駅」東口よりタクシーで10分