風情溢れる神楽坂の住宅街にひっそりと建つ、看板のない一軒家。竹垣を施した長いアプローチを進むと、澄んだ空気のその奥に、二つ星『懐石 小室(かいせき こむろ)』がある。店主の小室 光博(こむろ みつひろ)氏は、茶懐石の名店『和幸』で7年間修業ののち、1993年頃から出張料理人として活動し、2000年神楽坂に『懐石 小室』を開店。2018年2月、現在の場所へ移転した。
茶道の流派である遠州流の家元付き料理人でもあり、通年にわたり茶事の料理も担当している小室氏。四季の食材、そして山海の幸に恵まれた日本料理。その道を極め、「季節のお知らせである食材を、自然な形でお伝えするのが自分の使命」と語る。いつも心中にあるのは、「お客様に本物をお出しするにはどうしたらよいか」というシンプルでストイックな探求心。山梨・白州の小野田農園の米、最高級といわれる京都・塚原の白子筍、天然のスッポンやウナギ、キノコなど…生産者とも交流の深い小室氏は、季節ごとの最良を求めて産地や生産者のもとへ出向き、生産者の思いや食材の声をみずからの料理にのせて伝えている。本物へのこだわりは、日本酒もしかり。日本酒への情熱深く、目利きの坂長酒店を経由して季節ごとのお酒を仕入れるほか、小室氏みずからも毎年、酒造りの仕込みが最盛期の頃に酒蔵まで出向き、杜氏の思いや新酒の出来栄えをうかがうのが楽しみだという。ワインはシャンパーニュのほか、山梨・勝沼産の日本ワインを中心に揃えている。
店内は、京都の建築家・木島徹氏が設計。客席は風流な坪庭を臨むカウンター10席と、2階には個室が2部屋あり、家族の大切な集まりや海外ゲストのおもてなしなどにふさわしい、清廉潔白とした時間が流れている。空間や料理をさらに優雅に引き立てるのが、素晴らしい器の数々。修業先である『和幸』が茶道具商の料理番であったことから小室氏も器への造詣があり、古美術のほか、須田菁華や澤村陶哉など現代作家の作品や、輪島の蒔絵、雲井窯・中川一辺陶の鍋など、みずから選んだものを季節の移ろいとともに目でも楽しませてくれる。本物にこだわりぬいた店だからこそ、「きちんとした和食デビューがこれからという若い方にも、ぜひいらしていただきたい」と語る小室氏。清清しい日本空間で、本物の日本料理を堪能していただきたい。
※世界的グルメガイド東京 2023年度版にて二つ星を獲得
■アクセス
JR中央・総武線 飯田橋 西口 徒歩10分