広島市中心部で、商売の神様として知られる胡神社近くに店を構えるのが、一つ星の天ぷら料理『天甲 本店(てんこう ほんてん)』。大将の樋口 憲一(ひぐち けんいち)氏が、息子の二代目・貴大(たかひろ)氏と二人三脚で江戸前天ぷらを提供する、カウンター割烹スタイルの天ぷら店だ。
大将の樋口氏は、天ぷらの老舗『天一』で、13年余り腕を磨く。『銀座天一』の店長から赤坂、渋谷、新宿などの主要店を束ねるゾーンマネージャーに上りつめるほど江戸前天ぷらを極め、独立。1988年に故郷の広島で開業した。2009年には当時の店を『天甲 中町店』として弟子に任せ、さらなる高みを目指し『天甲 本店』を開店。時を同じくして、大学生の貴大氏が父の元で修業を始めた。受け継がれたDNAはめきめきと頭角を現し、大学卒業して1年後には師匠の右腕として天ぷらを揚げていた。今では食材の仕入れのほとんどを任されている。
『天甲 本店』の天ぷらは、「素材をいかし、本来のうま味を残して揚げる」。大将と二代目の目利きにより厳選に厳選を重ねた魚介や野菜を仕入れ、極上の天ぷらに仕上げる。例えば春には富山湾の白海老や岩国レンコン、6月解禁の小イワシ、夏には瀬戸内のアカタチウオや、廿日市市・女鹿平(めがひら)の舞茸、秋には倉橋のアナゴ、冬には名古屋のコフグなど、旬と産地にこだわった食材の持つ香り、食感などを最大限に引き出された天ぷらが、食通達をうならせる。揚げ油は、『天一』の上級店で使用するものと同じ質の高い油を使う。天ぷらに添えられるのは広島・蒲刈の藻塩とレモン。そしてアワビやノドグロなどには、大将がパリ旅行中に出合ったというトリュフ塩も提案される。
コース構成は、まずはサラダとお造りで天ぷらを味わう準備を整え、天ぷら後は小柱・海老(瀬戸内海シラサエビ・大分のエビ)・三つ葉のかき揚げを、天丼・天茶・天ほぐしから選んでいただく。最後は、大将が点てるお茶を一服いただいて〆るのが『天甲 本店』スタイル。米はコシヒカリ(福島・会津)、抹茶もランクの高いものを使い、こだわりは一貫している。ドリンクもすべて大将がセレクト。日本酒は広島や山口、三重のものが中心で、燗酒は広島「賀茂鶴 超特撰特等酒」を提供する。ワインも充実し、シャンパーニュや白は「ケンゾーエステートあさつゆ」、赤はブルゴーニュの高価格なものまで揃えている。
店内のカウンター8席は天然の木曽ヒノキ。器のほとんどは三重県の廣永窯のもの。カウンター内では大将と二代目が手際よく料理する。「特に分担はせず、親子だから阿吽の呼吸で」と、息子の成長に目を細める大将。親子共演を知人や家族、仕事仲間との会食などで楽しみたい。また大将も二代目も英語が堪能。大将においてはイタリア語、スペイン語も対応可能なので、海外から広島を訪れる方々にも『天甲 本店』の江戸前天ぷらを味わってほしい。
■アクセス
広電6系統(江波線) 胡町徒歩3分