観光客が行き交う石川県の古都・金沢市にある三茶屋街の一つ、「ひがし茶屋街」に店を構える趣のある町家造りの一つ星『蕎味 櫂(きょうみ かい)』。店名には、日本酒の櫂入れ作業のように、自分たちが手を加えた料理やおもてなしで、あたたかい良い店にしていきたいという想いと、夫婦2人が舟を漕ぐように一歩一歩力を合わせてお客様をもてなしたいという2つの想いが込められている。大将の田尻 淳(たじり じゅん)氏が夫婦二人三脚で、温かく穏やかにお客様を迎え入れる。
田尻氏は、宮城県仙台市出身。食通の父親に連れられ幼い頃から食べ歩きをし、家では台所に立つようになった。そしてプロの料理人を志し、東京の「エコール・キュリネール国立」に入学。卒業後、山形県にある老舗そば店で修業。東京に戻ると、立川の名店『蕎麦懐石 無庵』へ。料理長を務めるなどの研鑽を積み、2015年に独立。妻の故郷が金沢という縁から、「海が近く、山も近く、食材が豊富な金沢は料理人には絶好の場所」であると、自身の店『蕎味 櫂』の場所をここに決めた。こだわりの自家製粉の蕎麦と、北陸食材を生かした料理の評判は県内外にも広がり、世界的なグルメガイドブックにも紹介される人気店となった。
使用する食材はほとんどが地元のもので、市場に毎日通い、生産者や農家さんのつながりから良質なものを得ることができる。魚介は金沢湾や能登の七尾湾・輪島湾などから。野菜は金沢市内の農家などから届く。自慢の蕎麦は、福井や富山から原料を取り寄せている在来種を使った自家製粉。粒が小さく、力強く、香りが良い。製粉は店の石臼を使って手挽きで仕上げる。製法は、蕎麦の実の各層を取り分けず、そのまま3~4番粉まで挽き込む“挽きぐるみ”を用いており、配合は「外二(そとに)」。のどごしも良く、あら挽き蕎麦の粗さと香りを感じられる割合だ。
また、こだわりの椀には、熟成した利尻昆布と本枯節でひく一番だしを使い、四季折々に輪島の塗り椀を取り替えて季節を表現するなど、食材と器、そして香りや見た目の美しさからも、金沢の自然の魅力を伝えてくれる。日本酒は石川、富山、福井の北陸3県から、淡い口当たりで料理と一緒に楽しみことができるものを厳選。ワインは、やさしい出汁に合う国産ワインを中心に揃える。
建物は、築およそ100年の大正初期のもの。金沢の町家の特徴的な格子「木虫籠(きぬすこ)」が美しい、金沢町屋の姿をそのままに残す。店内は、テーブル卓のみ。料理と酒、そして蕎麦で〆る『蕎味 櫂』。家族や友人同士、そして海外ゲストのおもてなしなど、穏やかな食の時間を楽しむひとときを堪能していただきたい。
■アクセス
JR北陸本線(米原〜富山) 金沢駅 兼六園口よりタクシー 10分 (ひがし茶屋街)