静岡県で日本料理の名店を問えば、必ずと言っていいほど名前が挙がるのが焼津の『茶懐石 温石(おんじゃく)』。場所はJR焼津駅から徒歩だと約20分、住宅街の中にひっそりと店を構える。入口には『茶懐石 温石』の表札と暖簾がかかり、一見、普通の住宅のような佇まいだが、敷地内に歩みを進めると、飛び石がある露地と趣のある日本家屋が現れ、非日常的な雰囲気に期待感が高まる。
店主は、2代目の杉山乃互(すぎやま だいご)氏。先々代が経営していた蕎麦店から父の代で業態を変更。長きに亘って茶懐石料理店を営んできた父の背中を見て育ち、自身も高校時代から茶道を習い、自然と日本料理の道に入った。父も修業した東京・目白の『和幸』で6年間研鑽を積み、2016年ごろから店を継いでいる。
「温石」という言葉は、懐石料理の語源となっているという説もあるが、同店の店名には「技巧よりも心があたたまる、幸せになるような料理」という想いが込められている。メニューは、茶事の形式ばったものではなく、茶懐石の精神を伝えながらも、地元静岡焼津、駿河湾で獲れる魚を心ゆくまで楽しめる料理で構成される。使用する魚は、いまや全国的に有名になった「サスエ前田魚店」のもの。杉山氏の祖父の代から交流があり、店主の前田尚毅氏と、焼津の魚を最もおいしく提供するにはどうしたらよいかを二人三脚で考えてきた。その結果生まれたのが代表作の「金目鯛のウロコ焼き」。通年で提供ができ、まさにここでしか食べられない逸品だ。お酒は、焼津の銘酒「磯自慢」をはじめ、静岡県内の日本酒がおすすめで、『温石』の料理との相性の良さには定評がある。
木材のあたたかみを生かしながらもモダンな店内は、「ザ・ペニンシュラ東京」などを手掛けた橋本夕紀夫氏がデザイン。個室のみの料亭だった店を2019年にリニューアルし、カウンター席を設置。焼き台での調理も見ることができ、ライブ感のあるカウンターは9席(同グループなら10席)、茶室を含む個室が2部屋。県外からわざわざ訪れるゲストも多い『茶懐石 温石』で、心温まるひとときを味わっていただきたい。
■アクセス
JR東海道本線 焼津駅 徒歩20分