九州の玄関口、博多駅からタクシーで10分、静かな住宅街の一角に店名『嗣味(つぐみ)』と記した小さなサインが灯る。グレーの壁のモダンなエントランスだ。
店主、井上 長嗣(いのうえ たけし)氏は久留米市出身。兄、井上 享俊氏の影響で日本料理の道に入り、『京料理 本家たん熊 本店』などで腕を磨いた。2018年、兄が独立し開業した東京・西新橋の『味享(みたか)』に加わったのち、2020年に地元福岡で『嗣味』を開業した。
『嗣味(つぐみ)』という店名は、店主の名前の一文字であり、「嗣」の字の本来の意味である、つなぐ、受け継ぐ、という意味を込める。井上氏自身が九州の食材を使って味を継承していく、という思いがある。
料理はほぼ九州の食材を使用し、季節ごとの食材を丁寧にひと皿に仕上げる。玄界灘の海ウナギや冬場のアラ(クエ)、また野菜は近隣の農家や市場から、食後は果物や葛やわらび粉を使用した和菓子など、季節を通して種類豊富な食材が手に入ることが福岡の魅力だ。
ドリンクは、シャンパーニュがグラス、ワインはボトルで提供。九州のワインも扱っており、熊本の「菊鹿ワイナリー」や大分の安心院町「安心院葡萄酒工房」のワインをそろえる。また日本酒も九州中心に季節によって6〜7種。焼酎は宮崎や熊本、鹿児島から。ノンアルコールドリンクでは八女茶のボトリングティーや宮崎の釜炒り茶などを用意している。食器も有田や伊万里、唐津などの名陶の器でいただけるのが魅力だ。
日本料理店としては若々しさを感じるようなモダンな内装の店内はカウンター8席。どこからでも井上氏の手元を見ることができ、目の前で仕上げる料理を楽しめるのが魅力となっている。
店主が京都で培った日本料理の技術を、九州の食材に合わせながら展開する『嗣味』で心ゆくまで楽しめるひとときを過ごしていただきたい。
■アクセス
博多駅よりタクシーで10分
西鉄薬院駅より徒歩約10分