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TOP-CHEF-INTERVIEWS
「日本の食文化を世界に発信していく」。そんなポケットコンシェルジュのビジョンから始まったインタビュー特集です。日本で活躍する一流レストランのシェフを取材し、レストランに対する思いや、料理人としての考え方などを紹介していきます。

第13回

『天ぷら成生』志村 剛生

静岡に、天ぷらの名店あり―。今や全国から予約が殺到し、熱い注目を浴びる『天ぷら成生』。店主の志村剛生氏の並々ならぬ食材へのこだわりや、既成概念にとらわれない天ぷらの提供スタイルで、多くの食通を魅了している。今回は、そんな志村氏が天ぷらを極めるに至った背景や、食材への情熱、めざす店づくりについて語っていただいた。

Pick up topics
1.留学先のシドニーから静岡へ移り、地元食材の美味しさに感動
2.世界が認める魚のプロや、地元の生産者との深い絆が生む極上の素材たち
3.素材とパフォーマンスを磨き続け、天ぷらのさらなる可能性を追い求める

 

天ぷら成生

 

留学先のシドニーから静岡へ移り、地元食材の美味しさに感動

―――志村さんは、どのような経緯で料理人を志したのでしょうか?

私は、料理人を目指して専門学校へ……というタイプでなく、東京農大を卒業後、オーストラリアに留学しました。大学の先輩がシドニーのジャパニーズレストランのオーナーで、そこで皿洗いのアルバイトを始めたのが、飲食業との最初の関わりです。もともと料理人になろうとは思っていなかったのですが、「シドニーで働き続けるんだったら、調理師免許をとってこい」とオーナーに言われて、一時帰国して、先輩に紹介してもらったのが、焼津の割烹料理屋です。

当時のシドニーでは、少し鮨が握れたら和食の料理人として商売が成り立つような世界でしたから、その割烹料理屋には、調理師免許を取ることと、魚の仕入れやおろし方を学びたいという軽い気持ちで入店したんです。しかし、そんな甘い自分を、誰一人相手にしてくれませんでした。当然ですよね。結局、1年で逃げるかどうかの瀬戸際で負けず嫌いの意地をはりながら続け、それからの約6年間は貪欲に体に叩き込みました。そして本当の修業は、開業してからでしたね。

――― シドニーから焼津へ移動されて、環境はかなり変化したのではないでしょうか?

環境もそうですが、静岡に来て最初に衝撃を受けたのは、食材の素晴らしさでした。私がこれまで見てきた食材とは鮮度も味わいも全然違いました。食材が生きているんです。とにかく香りがすごくて、静岡にはこんなにいい食材があるんだなあと感動しましたね。とくに鮮魚は、築地に送る前に上位の質の良いの魚が地元で消費されるので、都内に集まるものとは比較にならないと感じました。

――― 天ぷら職人を目指そうと思ったのも、割烹料理屋での経験からなのですか?

そうですね。割烹料理屋には、お座敷の天ぷらコーナーがあったのですが、初めの頃は先輩の板前が担当していて、お客様もついているのでなかなか揚げさせてもらえませんでした。5年目くらいからようやく任せてもらえるようになって、勉強のためにあちこち専門店へ食べに行くようになって気づいたのは、天ぷらが他の料理に比べて曖昧な部分が多いこと。粉の扱いや、卵を溶く割合などお店によってバラバラで、鮨などに比べると全然確立されていない料理だと感じました。

――― 興味深いジャンルですね。そこから、独立も同じ静岡を選ばれたんですね。

天ぷらは素材のもつ香りを閉じ込める料理なので、揚げ手の腕もありますが、とにかく素材が命なんです。地元の川崎で開業して、素材を静岡から仕入れることも考えたのですが、やっぱり距離的に難しいなと。都内で開業していたら揚げる種は全然違ったと思いますし、静岡の素晴らしい食材があったことが、天ぷらをもっと極めようと思ったきっかけの一つです。

天ぷら成生

“静岡の地の食材” 朝、畑から獲れた新鮮な食材ばかり

しかし当時は、天ぷら文化のない静岡で、1万円の天ぷらコースというのはなかなか考えられない価格設定だったので、開業して1カ月で店を潰しかけています。そこで、天ぷら以外の料理も少し入れた方がいいかなと思い、最初はつまみやそばなども出していたのですが、常連のお客様から「天ぷらにもっと特化したら」と言われ、心が決まりました。現在のコースは1万5,000円(税別)で、お造りのあと、天ぷらが約14品。野菜と魚の割合は半々くらいで、最後に〆のごはんもの、という内容です。昼夜ともに同じ内容で、お酒を飲んで2万円ほどのご予算です。

あと、最初は入口の方に個室が1つあったのですが、やっぱりお客様が見ているところでやらないと意味がないなと考え、それも1年くらいでやめて、カウンターのみにしています。

天ぷら成生

静岡の素晴らしい食材があったことが、

天ぷらをもっと極めようと思ったきっかけの一つです。

世界が認める魚のプロや、地元の生産者との深い絆が生む極上の素材たち

―――食材に並々ならぬこだわりをおもちですが、仕入れはどのように開拓されたのですか?

魚に関しては、料理人は魚屋には絶対勝てないので、プロに任せたほうがいい、というのが私の考えです。特に焼津の老舗鮮魚卸「サスエ前田魚店」の店主・前田尚毅さんとは、試行錯誤を重ねてきて、10年経ったいまでもずっと続いています。前田さんは、国内のみならずニューヨークやシンガポールなど世界中のシェフを顧客にもつプロ中のプロ。前田さんのすごいところは、目利き力はもちろん、我々の手元に届く時に最高の状態になるように、魚の締め方や輸送時間などまで配慮して持ってきてくれることです。何度もお店に食べに来てくれて、お店のコンセプトを知ってくれた上で、こちらの好みもしっかりと伝えるなどして、信頼関係を築いてきました。いまはLINEがあるので、いい魚が入ると、「こんなの入ったよ」と携帯に直接知らせてくれることもあります。だけど前田さんは世界中から注目されているので、上位数%の魚をみんなで取りあうのは命懸けです。タイミングを逸すればとりっぱぐれます。

―――『成生』さんは、魚だけでなく野菜の味わいにも定評がありますよね。

 野菜は、静岡の契約農家にスタッフが出向いて収穫するなど、生産者から直接仕入れることも多いです。同じ食材でも一つひとつ個性が違うので、ゲストの年齢層などを考えてそれぞれのゲストに合うものを選ぶようにしています。素材の味を体感してもらうため、天ぷらにする直前まで極力食材に触れない、というのも大事にしていて、野菜は泥付きのまま保管しています。

天ぷら成生

―――天ぷらは、2つの鍋を使い分けているのですね。

いろいろなものを揚げるので、素材に合わせて温度帯を変えていて、基本的には高温と低温の2つの鍋を使っています。天ぷらのように素材の香りを閉じ込める料理には、保温性の高い銅鍋が適しています。天ぷら油は、2種類のゴマ油一本です。天ぷらという料理は、食材を衣で包んで油で揚げることで、まず衣の水分が蒸発し、水分と油分とが置き換わります。衣でまわりを固めることによって中の食材の水分を保ったまま火を通すことができるので、蒸し物に近いんです。だから高カロリーではなく、実はヘルシーな料理なんですよ。天ぷらは、よく音が判断材料になるといいますが、いい材料は全然音がしないんです。

―――衣へのこだわりも教えてください。

冷やすことです。粉はマイナス20度で保管していて、合わせる水も冷やしています。天ぷらにする時に少量ずつふるっては冷やし、都度衣を作ります。衣は呼吸するんですよ。だから衣が呼吸しているうちに天ぷらにします。空気が抜けてしまうとおいしくないですからね。

天ぷら成生

衣は呼吸するんです。

だから、衣が呼吸しているうちに天ぷらにします。

素材とパフォーマンスを磨き続け、天ぷらのさらなる可能性を追い求める

―――揚げたてを手渡したり、少し時間を置いたりと、素材ごとに提供の仕方を変えているのも特徴ですね。

例えばタチウオは出来るだけ早く食べてもらいたいので、揚げたてを皿には盛らずに直接お客様の天つゆに入れます。逆に、サツマイモのように、揚げてからあえて少し時間を置いて“蒸し”の工程をとるものもあります。じゃがいものように手づかみでかぶりついて食べた方が美味しいと思うものは、揚げたてを直接手渡したすこともありますよ。素材の水分量や油の温度、衣の状態などは、日々どれがベストなのかを模索しています。

天ぷら成生

朝獲れのヤングコーンは揚げたてを手渡しで。まるでブリオッシュの様に香ばしく甘い香り、そしてサクサクの食感がたまらない。

 

―――他では味わえない天ぷらを求めて、県外だけでなく海外からのゲストも多いようですね。

今でこそです。開業して5年くらいまでは県外からのお客様は少なく、地元の方が中心でした。東京など県外からのお客様が目立って増えたのは、ここ3年くらいですね。海外のお客様も、確かに多いです。以前、イタリアで食の国際会議に前田さんと出たのをきっかけに、イタリアからのお客様も増えました。

ちなみに、イタリアの「フリット」が一定の衣で火を入れる作業なのに対して、天ぷらはタネや衣の形状をその都度変えて、素材と衣のバランスを大切にしています。天ぷらは、食材の味を感じるのに最適な調理法であり、揚げ手のメンタルがすごくでちゃう料理でもあります。

天ぷら成生

―――最後に、今後の展望をお聞かせください。

素材に関しては、本当にいろいろな材料があって、まだまだ見つけきれていない状態なので、これからも地元の良い食材を追求していきたいですね。お店に関しては、席数はこれ以上増やすつもりはありませんが、もう少しバックヤードやお手洗いを広くしたいので、そのうち移転したいと考えています。目の前で素材をいちから調理するところを見てもらうと、お客様にはすごく喜んでもらえるのですが、いまは入れ替えの時間が気になってしまって。例えば、地下に一定の温度の冷蔵庫があれば、もっと効率良く揚げられるので、よりよいパフォーマンスを発揮できると考えています。

天ぷら成生

 


【聞き手】白石直久
【文】笹木理恵
【編集】濵本亜沙子
【撮影】キミヒロ


『天ぷら成生』へのアクセス〉

JR東海道本線「静岡駅」北口より徒歩10分

天ぷら成生JR「静岡駅」から徒歩10分、「新静岡駅」からは徒歩4分ほどの、静かな住宅街の一角に店を構える。
天ぷら成生7人限定のカウンター席は、数カ月先まで予約で埋まっている。
天ぷら成生白を基調にしたスタイリッシュなデザインのファサード。小さな扉の先には天ぷらの未知なる世界が広がっている。
Restaurant Data
店名: てんぷら成生
住所: 静岡県静岡市葵区鷹匠2-5-12 1F
営業時間: Lunch: 12:00~14:30【水・日のみ】
Dinner:
【火~日】17:00~19:30
【火・木・金・土】19:30~22:00
定休日: 月曜日
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