Pocket Concierge

【特別レポート】
Dining Crossover produced by 傳
第5回 「傳 × cenci」

星の数ほどある世界中すべてのレストランを対象とするランキング「アジアのベストレストラン50」で1位にランクインした日本料理店『傳』店主・長谷川在佑さん。そんな長谷川さんがホストとなり、彼自身が尊敬する料理人と共にガストロノミーを創造する特別企画「Dining Crossover produced by 傳」第5弾が、賑わいを取り戻しつつある真夏の京都で開催されました。これは、アメリカン・エキスプレスとそのグループ会社であるポケットコンシェルジュが主催するイベントで、プラチナ・カード®会員様が参加対象です。

「料理でみんなを笑顔にして幸せをつなぐ」。この想いが長谷川さんのすべての行動の指針となっています。「おいしい料理を誰かと楽しむ時間を通じて、日本にはたくさんのすばらしい生産者さんがいることを知っていただきたい。そしておいしい料理をお客様に食べていただくことで、お客様ご自身も飲食に関わるみんなも元気にしたい。そのきっかけになればと、このイベントを企画しました」(長谷川さん)。

第5回(2022年8月)のコラボレーターは、京都のイタリア料理店『cenci(チェンチ)』オーナーシェフ・坂本健さん。意外にも『傳』が京都でイベントを開催するのは初めて。さらに長谷川さんと坂本さんがタッグを組むのも初めてとあって、関西のガストロノミーファンから熱烈に歓迎されたこの一夜。長谷川さんはどんな“楽しさ”を演出したのでしょうか。熱気に満ちた宴のもようをご紹介します。

※アメリカン・エキスプレスは、ニューノーマルのなかで前進しつづけるレストランや生産者を応援しています。


『傳』 長谷川 在佑

日本料理店『傳』店主。家庭の温もりを大切にしながら、伝統的日本料理を洗練と親しみやすさを合わせ持つガストロノミーへと昇華させ、“和食”の魅力を世界に発信する第一人者。2022年版「世界のベストレストラン50」20位(アジア最高位)、2022年版「アジアのベストレストラン50」1位、接客を評価する「アート・オブ・ホスピタリティ賞」を受賞。有名グルメガイド二つ星。著書に『普段着の和食がおいしい理由』(新星出版社)など。

『cenci(チェンチ)』坂本 健

『cenci(チェンチ)』オーナーシェフ。大学在学中の欧州旅行で本場のイタリア料理に出合い料理人を志す。生まれ育った京都の地を離れずに研鑽を積みたいと京都の名店『イル・パッパラルド』でキャリアをスタート。京都の食材とイタリア料理の技術を掛け合わせた、日本人シェフならではのイタリアンで一世を風靡した『イル・ギオットーネ』を経て2014年独立開業。2022年版「アジアのベストレストラン50」43位、有名グルメガイド一つ星。

おいしさのゴールに向かって回し続けた抜群のパスワーク

伝統と格式が重要視されてきた日本料理界にエンターテインメントを融合し、メンバー全員が一丸となって“日本料理をおいしく楽しむ時間”を提供している『傳』。長谷川さん率いるチーム『傳』が京都へ初めて遠征しました。迎えたのは、本場イタリアでの修行経験がないことを強みに、生粋の京都人だからできる”京イタリアン”を提唱する『cenci』坂本健さん。”みんなに伝わるちょうどいいおいしさ”というゴールを共有したふたりは初コラボながら息ぴったり。しっかりと考え抜かれて丁寧に作り込まれたメニューはまさに”ちょうどいいおいしさ”そのもの。長谷川さんが「もう一回やりたい」と言うほどの盛り上がりとなりました。

とうもろこし フォアグラ

西京みそに漬けたフォアグラに何を組み合わせるか。各シェフの個性が毎回楽しみな「傳最中」。坂本さんは、フォアグラと相性のいいフルーツのような甘味があり、フレンチでは定番の組み合わせで、今の季節にまさにおいしさのピークを迎えるとうもろこしをチョイス。粒のままではフォアグラのなめらかさにそぐわず、ピュレではフォアグラの風味に負けてしまうと、絶妙なサイズに手で叩いたコーンを合わせ、仕上げにカカオの仲間であるテオブロマ属の果実「マカンボ」を煮詰めたジャム「ハレヤ」を加えました。ペアリングは、ブリュットナチュールの作り手として注目を集める女性醸造家が手がけたシャンパーニュ Val Frison Gouston Brut Nature。

カポナータ もち米 カシューナッツ

「『傳』さんを待ち侘びていた京都のお客様に喜んでいただくために、最初から『傳』さんらしさ全開でいこうと考えました。「傳最中」に続く「傳タッキー」は、コースの構成としても流れがよく、常温から熱々へと料理の温度の変化も楽しめます」と坂本さん。「これがほんとの(坂本)健(ケン)タッキー」と客席を大爆笑させた長谷川さん。ウィットに富んだ演出に加えて、みんなが知っているおなじみのカポナータともち米を合わせ、夏野菜のリゾットのようでリゾットじゃない、誰も知らない新しいおいしさを作り出す坂本さんのセンスがひと際光りました。合わせたのはフレッシュな酸ときれいな果実味がカポナータとよく合う、日本が誇る山梨のワイナリー Beau Paysage の2017 TSUGANE Chardonnay。

サスエ前田

一流の料理人が圧倒的な信頼を寄せる魚の仕入れ先『サスエ前田魚店』。「その日もっともおいしい魚を届けてくれるので、僕たち料理人も何がくるのか受け取るまでわからないんです」(長谷川さん)ということで、店名をそのままメニュー名にしたのがこちら。この日は8日間寝かせてうま味を最高潮に高めたハタが食べごろを迎えていました。モロヘイヤやつるむらさきといった粘りのある野菜と共にサラダ風に仕立て、『cenci』特製の黒麹と鮎の魚醤を発酵させた調味料や木の芽のペーストを加えています。ワインは、皮ごと使ったデラウェアのにごりが自然なうま味へとつながる國津果實酒醸造所のEdamatsuEtFuruuchiMaceration2019。

白海老 蛤

ミョウガやカイワレ、アサツキといった香味野菜をたっぷりのせて食べるイタリア風(というより『cenci』風?)”冷やしうどん”。中力粉と塩、水だけで坂本さんが打ったタヤリンのように細いパスタに、長谷川さんがつくったハマグリと昆布を水で煮詰めてキンキンに冷やした出汁をかけ、うっすらと刺身醤油を塗った富山産の白海老をのせ、シチリア産のオリーブオイルをほんの少し垂らしてイタリアンらしいエッセンスを加えました。『傳』らしさを主役にしつつ『cenci』のパスタのファンの期待にも答えた今回のコラボらしい一品に、爽やかながら長期熟成のコクもあるブルゴーニュ、Clos des Vignes du Maynes Cuvee Leandreがよく合っていました。

グリーンアスパラ 鮎 山梨県産黒トリュフ

『cenci』のこの季節のシグネチャーメニュー、鮎料理。長谷川さんも気に入ったという頭から尻尾、骨まで丸ごと食べられる坂本さんならではの技術を生かした鮎をメインに、北海道のアスパラ専門農家ジェットファームのグリーンアスパラガス(通称ハセパラ)をジューシーにサッと蒸して添えました。フレンチ風のソースを担当したのはなんと長谷川さん。山梨の秘密の場所で長谷川さん自身が採った黒トリュフをたっぷりと刻み、鰹出汁で伸ばしたベシャメルソースで煮ています。ベシャメルソースの風味はしっかりと感じさせつつ軽やかな仕上がりが長谷川さんらしい。ワインは、酸化熟成したシェリーのような風味がトリュフの香りを引き立てるアルザスのLes vins Pirouettes L’axydatif。

茄子 伝助穴子 田楽みそ

夏の京都といえばハモが定番ですが、坂本さんは、もう少し涼しくなって脂がのってくる季節の方が自身の料理には合うと考えているとか。今の季節のお気に入りは超特大サイズの伝助穴子。今回は1kgを超えるものを丁寧に骨切りして炭火で香ばしく焼き上げました。合わせたのは出汁を含ませてやわらかく炊き、長谷川さん特製のみそを添えたなす田楽。ピリッと辛味のある青い香りのセルバチコのトッピングが和食とイタリアンを結んでいます。存在感のある大きなアナゴには赤ワインがぴったり。チーム『cenci』が大好きな日本ワインの造り手Beau Paysageのラインナップから、今回は炭火焼きのスモーキーな香りに合うカベルネフランを使ったTSUGANE la bois 2015をチョイス。

赤ヤマドリダケ 仔鳩 完熟山椒

長谷川さんは「坂本さんが確立した独自の焼き方でしっとりと仕上げた鳩の胸肉を主役に」、坂本さんは「『傳』さん名物の土鍋ご飯を引き立てる肉料理を」と、お互いへのリスペクトがお皿の上で出合ったかのようなコラボならではの特別なひと皿。傷みやすい赤ヤマドリダケを、この日のために採っては保管を繰り返していた長谷川さん。食べ応えのある大ぶりのきのこときのこのエキスを吸い込んだ米は誰もがため息をもらすほどの組み合わせです。そんな米料理のひと粒ひと粒のおいしさを引き立てる筋繊維のやわらかい肉として、坂本さんは仔鳩を選びました。もも肉やハツ、レバーなど残った部位を刻んだものに米麹を絡めたオリジナルの肉味噌を添えて。鳩ときのこの繊細さを損なわずに寄り添いつつワインそのものの完成度も高いメルロー、RADIKON 2006を合わせて。

赤紫蘇 葛 梅

ひとつ目のデザートは「攻めた和の甘味」がコンセプトの真っ赤な葛切り。赤紫蘇を煮出した紫蘇ジュースを葛で固めた葛切りは、つるんとした喉越しが心地いい。葛切りの下には和歌山・蔵光農園の完熟梅の砂糖漬けでつくった甘酸っぱいグラニテとピュレが忍ばせてあり、時間の経過と共に溶けたグラニテが梅のシロップへと変化して、葛切りと共にさまざまな温度と味わいを楽しめる仕かけです。梅と紫蘇という古くから普遍的な食材の組み合わせなのに、まだ新しいおいしさを生み出せるふたりのクリエイティビティに感動。アンフォラで熟成させたイタリア・トスカーナのドライなオーガニックジンGINEPRAIOが後口をキリッと引き締めます。

小豆 無花果 アマゾンカカオ 薄荷

日本薄荷の香りが爽やかなさっぱりした水羊羹(長谷川さん担当)と、乳製品を使わずアマゾンカカオのペーストとカカオハスク(カカオ豆の薄皮)を煮出したお茶のようなものだけでつくったカカオクリーム(坂本さん担当)の組み合わせは、長谷川さんいわく「和風ミントチョコ」。鹿児島・喜界島で杉俣絃二朗(すぎまた・こうじろう)さんが有機栽培するさとうきびから生まれた希少価値の高い黒糖を使ったアイスクリームとフレッシュなイチジクを添えました。坂本さん自身が喜界島を訪れてさとうきびの収穫から黒糖を炊くところまで体験したとか。ペアリングはイタリア・ヴェネトのANGIOLINO MAULE。古いセラーで樽に入ったまま残されていたさまざまなヴィンテージのワインをブレンドした珍しいワインです。

イベントを終えて

頭で考える時間が必要な難しい料理は挟まず、誰もがすんなりと受け止められる流れのいいコースを構成し、熱い料理は熱々のうちに冷たい料理はキンキンに冷やして、ストレートなおいしさを楽しんでいただく。そんなゴールを共有した今回のメニュー。東京と京都という離れた場所にいながらも、メッセージを頻繁にやり取りして丁寧に創り上げていきました。坂本さんとのコラボは初めてでしたが、目指す料理のかたちは長谷川さんと共通点が多く、お互いにわかり合えて準備段階から相性のよさを感じていたそうです。

「これまでは何が飛び出すかわからない高田さん(第1回・La Cime)や使う食材も含めてフリースタイル過ぎる小林さん(第3回・villa aida)など、やってみるまでわからないその瞬間だけのスリリングなライブ感を楽しんでいただきましたが、今回は心を落ち着けてゆっくりと準備に向き合うことができました。共有するゴールが見えているという意味では剛さん(第2回・La Maison de la Nature Goh)もそうでしたが、剛さんとは食べ進むごとにゲストのボルテージも加速していく高揚感、坂本さんとはみんながくつろいでおいしさを楽しめる穏やかな時間を提供できたと思います」。

坂本さんの「おいしさにストレートに向き合う姿勢がとても好き」と言う長谷川さん。たとえば誰もが手に入れやすい身近な食材のなす。「なすはありふれた野菜かも知れませんが、生産者さんは時間も手間もかけて想いを込めて育てています。そんな食材をお客様に嫌いと言われてしまうことなく、料理人としておいしく仕上げてこのなすはおいしいと言っていただきたい。そのためにはどんな調理法と食材で味を組み立てるのか。うま味を過剰に重ねるのではなく、なすそのものの素晴らしさを味わえる、長谷川さんがおっしゃるところの“ちょうどいいおいしさ”へのアプローチをいつも考えています」(坂本さん)。そんなふたりをサポートすべく「料理を引き立てる味わいをもちろん最優先にしつつ、好きな造り手さんの背景にある物語もお伝えしました」と語るペアリングドリンク担当の『cenci』マネージャー/ソムリエ・文屋(ぶんや)隆志さんをはじめ、料理の温度帯を大切にスムーズに全テーブルへと提供したチーム『傳』とチーム『cenci』のチームワークも光っていました。

リピートされるお客様もいらっしゃるなど、回を重ねるごとに興味深さを増していく「Dining Crossover produced by 傳」。「Dining Crossover produced by 傳では、毎回その日だけしか味わえない特別なメニューと空間を創造しています。ゲストシェフは、僕自身が料理哲学に共感する料理人仲間です。これまで見たことのない刺激的なコラボレーションを開催しますので、次回も注目してください」(長谷川さん)。

第6回のゲストは東京・神保町のイタリアン『Alter Ego(アルテレーゴ)』平山秀仁さん。イタリア・ミラノで『Ristorante TOKUYOSHI』『Bentoteca Milano』などを手がける徳吉洋二さんの東京店です。長谷川さんにとってヘッドシェフの平山さんは「弟のような存在」とか。第5回の『cenci』に続くイタリア料理店とのコラボとなりますが、今回とはまったく異なるメニューを制作中。長谷川さんが本格イタリアンに取り組むという前代未聞の料理も登場するかもしれません。これまで見たことも食べたこともないメニューが登場するに違いない次回の「Dining Crossover produced by 傳」。どうぞお楽しみに。

【撮影・文】江藤詩文​

アメリカン・エキスプレスでは、本イベントを含め、あらゆるダイニング特典をご紹介しています

参加レストランのご紹介

外苑前駅から徒歩7分ほど、外苑西通り沿いのビル1階に店を構える日本料理店『傳』。料理と接客を通して“人を楽しませること”を追求し、家庭料理の温もりが伝わるような、新しいスタイルの日本料理店を築き上げる。木の温もりを感じさせるウッディーな店内は、14名が座れるロングテーブル、2~4名掛けのテーブル席、個室があり、記念日やデートなど、特別な日のご利用に最適。ぜひ一度、“長谷川流”の料理とおもてなしをご堪能いただきたい。

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cenci(チェンチ)

京都・平安神宮近くにひっそりと佇む『cenci(チェンチ)』。地のものを中心に丁寧に手をかけたバランスのいい京都ならではのイタリアンで、アジア中のファンを惹きつけてやまない。オーナーシェフ・坂本健さんとチームが手づくりで仕上げた天井の高い店内は、大きな窓から光が降り注ぐダイニングのほかひとりでも利用しやすい4席のカウンター、最大6名までの個室があり、さまざまなシーンで利用しやすい。

ポケットコンシェルジュとは

レストラン検索からご予約、会計までワンストップでご提供する「ポケットコンシェルジュ」。食に精通したスタッフが自信を持ってお届けできるお店だけを厳選し、ご紹介。名店ならではの質の高い料理、そして充実のサービスでお連れ様にも満足いただけます。
ポケットコンシェルジュは、アメリカン・エキスプレスのグループ会社です。

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