Pocket Concierge

【特別レポート】
Dining Crossover produced by 傳
第8回 「傳 × レストラン オマージュ」

アジアの全レストランを対象とするランキング「アジアのベストレストラン50」でトップに立つ日本料理店『傳』店主・長谷川在佑さん。先ごろ、長谷川さんがホストとなり、彼と同じく高い志を持つ料理人を迎えて共にガストロノミーを創造する特別企画「Dining Crossover produced by 傳」第8弾が開催されました。これは、アメリカン・エキスプレスとそのグループ会社であるポケットコンシェルジュが主催するイベントで、プラチナ・カード会員様®︎が参加対象です。

「国内外の多くの方に、僕たちがつくる料理を通じて、日本にはたくさんの素敵な生産者さんがいることを知っていただきたい。そしておいしい料理と楽しい時間を共有し、それが伝わることでお客様ご自身も飲食に関わる人々も元気にしたい。そのきっかけになればと、このイベントを企画しました」と長谷川さんは語ります。

第8回(2022年11月)のコラボレーターは、東京・浅草のフレンチレストラン『レストラン オマージュ』オーナーシェフの荒井昇さん・麻友香(まゆか)さんご夫妻。10組の特別なゲストだけが体験できる空間で、荒井さんご夫妻を迎えた長谷川在佑さん・えみさんご夫妻はどんな“おもてなし”を演出したのか。女性ふたりにフォーカスした優美な宴のもようをご紹介します。


『傳』 長谷川 在佑

日本料理店『傳』店主。家庭の温もりを大切にしながら、伝統的日本料理を洗練と親しみやすさを合わせ持つガストロノミーへと昇華させ、“和食”の魅力を世界に発信する。2022年版「世界のベストレストラン50」20位(アジア最高位)、2022年版「アジアのベストレストラン50」1位、接客を評価する「アート・オブ・ホスピタリティ賞」受賞。有名グルメガイド二つ星、女将・えみさんが2022年「サービスアワード」受賞。著書に『普段着の和食がおいしい理由』(新星出版社)など。

『レストラン オマージュ』荒井 昇

フランス料理店『レストラン オマージュ』、姉妹店のビストロ『noura(ノウラ)』オーナーシェフ。調理師専門学校を卒業後都内のレストランやフランスの星付き店などで研鑽を積み、2000年生まれ育った浅草に同店をオープン。クラシックな本格フレンチを基本としつつ東京や浅草らしさを表現した独創的な料理が世界中のファンから愛されている。有名グルメガイド二つ星、マダム・麻友香さんが2021年「サービスアワード」受賞。共著に『自由な発想で素材をいかす オードブル・バイブル』(ナツメ社)。

サービス界のツートップが史上初の共演

初心者や外国人には敷居が高かった日本料理を、伝統をきっちり踏襲しつつ「みんながおいしく楽しめる」料理へとドラスティックに革新し、世界へと広く門戸を開き、ユネスコ無形文化遺産に登録される以前から“和食”の魅力を世界に発信し続けてきたフロントランナー『傳』。

有名グルメガイドで昨年は『レストラン オマージュ』マダムの麻友香さんが、今年は『傳』女将のえみさんが共に「サービスアワード」に輝いたことを記念して、第8弾となる今回は「Dining Crossover produced by 傳」シリーズ初の”ホスピタリティ”がテーマに。えみさんと麻友香さんを主役とした宴となりました。テキパキしたえみさんとおっとりした麻友香さん。個性は異なれど相性は抜群で、共に美しく着物をまとい、微笑みながらエレガントに一人ひとりのお客様と向かい合う。日本文化の粋を凝縮したような情趣豊かな一夜となりました。

最中

『傳』の代名詞でもある西京味噌漬けのフォアグラを詰めた最中。和のイメージが定着していますが、荒井さんはフレンチのシェフとして、使い慣れた食材であるフォアグラに、ヨーロッパのオーセンティックな味覚と香りを加え、ぐっとフレンチに引き寄せて仕上げました。合わせたのは、自身でスモークしたチョウザメのリエットにフロマージュブランとアニスを加えたペーストとベルガモットのピュレ。いつもの最中のおいしさを守りつつ、日本の柑橘とは異なるベルガモットの香りやアニスの風味が表情をヨーロッパのニュアンスに変えています。ワインはノンドサージュらしいキレのよさと豊かな味のふくらみを合わせ持つContadi Castaldiのフランチャコルタ Dosaggio Zero 2017。

小鉢

「寒い季節なので早めに温かいものを」と長谷川さん。『傳』の出汁をたっぷり使ったふるふるの茶碗蒸しをベースに、荒井さんがヨーロッパの味わいをプラスします。ソースに選んだのは、ほっこりとした土の香りが共通するトピナンブール(菊芋)とマッシュルーム。1週間ほどかけて発酵させたトピナンブールを小さく刻んでマッシュルームのエッセンスを加えたブイヨンに合わせ、葛粉でとろみをつけました。発酵させたトピナンブールは、ベルギーやオランダでこの季節によくつくられる保存食。修業したフランスだけでなくヨーロッパ全域の食文化を今も学び続けている荒井さんならではの視点です。トッピングは鰻のポワレと山葵。お酒は奈良・今西酒造のみむろ杉 純米吟醸 山田錦。

DFC

「傳タッキーにはこれが合うと思っていました」と荒井さんが言うのが、ミンチ肉をギンディージャという青唐辛子のピクルスやスパイスと煮込む、バスク地方の家庭料理アショア。牛、豚、羊、鹿、生ハムといった肉類の端材を集めて刻み、フォンドボー、ギンディージャのピクルス液、生ハムの出汁にパプリカを加えたスープで煮て、長谷川さんの餅米にたっぷり混ぜ込みました。お米にはターメリックとカルダモンで香りをつけ、仕上げにレモンの皮とレモン果汁をちょっぴり加えるという細やかかつ考え抜かれた精緻な工程はさすが荒井さんならでは。ワインはイタリア、リグーリア州のヴェルメンティーノ種を使ったLvnae Cavagino Colli Di Luni Vermention 2020。ハーブや柑橘の香りがフレンチ風傳タッキーの魅力をより引き立てます。

造里

ヨーロッパのほかアジアの料理にも造詣が深く、台湾の魯肉や香港のXO醤を自家製でつくり、隠し味に使ったり姉妹店で提供したりしている荒井さん。『傳』のうま味を凝縮した海苔醤油で食べる刺身に触発されて閃いたのが、マレー半島で旧正月を祝って食べられる刺身のサラダ仕立てローヘイです。「コラボという特別な食卓の祝祭感に縁起のいい料理はぴったりだと思いました」。4日間寝かせた能登のサワラを直火で炙り、ソースはエシャロット、大葉、茗荷、ヘーゼルナッツ、ハチミツ、すだちにしょっつるや白醤油をブレンドした荒井さん特製の和風XO醤。炒った干貝柱と海苔をトッピングして食感を加えています。ペアリングは、素焼きのクヴェヴリを彷彿するエチケットが印象的なイタリア、エミリア・ロマーニャ州のアルバーナ種を使ったオレンジワインGiovannini 8000 Bianco del Sillaro。

蒸し魚

9日間寝かせた20kgほどの大きなイシナギを厚めの切り身にして、ゆっくりと焼いて抽出した鴨の脂を溶かし込んで醤油で味を整えた吸い地でしゃぶしゃぶのようにさっと加熱(ここまで長谷川さん)。鴨の脂でコーティングされたイシナギの白身魚のおいしさをフレンチのアプローチでさらにアップするために荒井さんがモチーフにしたのが舌ビラメのボンファムです。濃厚なウニをソースに見立てて切り身にのせ、さらにちぢみほうれん草とバター、牛乳を使ったクラシックなソースを重ねて、ほうれん草のフォームで現代的なプレゼンテーションに。ここにワインではなく日本酒を合わせるのが女将・えみさんのセンスのよさ。加茂錦酒造の荷札酒「月白」純米大吟醸 しぼりたてのさわやかな酸味と複雑味を楽しみました。

傳サラダ「畑の様子」

各テーブルを回ってソースをかけるという、いかにもフレンチらしいタッチで「畑の様子」を仕上げた荒井さん。ヨーロッパでトレンドのホエイ(乳清)にチーズをミックスした温かいソースをモチーフにしつつ「傳のサラダの味つけには乳製品よりナッツの風味が合う」と、ヴィーガンチーズをヒントにカシューナッツをピュレにして、煮詰めたブイヨン・ド・レギューム(野菜の出汁)やレモン果汁、バターなどを混ぜ合わせて乳化させ、基本の和の味(塩昆布)とリンクするために隠し味として『傳』のかつお出汁を加えました。葉ものに加えて菊芋チップス、カステルフランコ、ピリ辛のごぼう、ジューシーなトマト、黄にんじんのピクルス、黄ビーツなどソースをまとった野菜はメインディッシュにもなり得る存在感。ワインはNapa Highlands Chardonnay 2020。

煮物

「京都の白味噌のお雑煮に出合って、日本料理には無限のポテンシャルがあると感じました。この世界観を僕なりにフレンチらしく再構築してみたい。そこで長谷川さんに白味噌を使ったお椀をつくっていただきたいとお願いしました」と荒井さん。リクエストに応えて長谷川さんは、白味噌に酒粕を合わせて下仁田ねぎと白菜という白い野菜を加えた出汁の風味が生きた上品なお椀を用意しました。これに千葉「クルックフィールズ」の水牛のモッツァレラを加え、モッツァレラと干し草のソースをフォーム状にしてトッピングしたことで、ほっこりした和の世界をモダンなフレンチの世界に再構築。お酒は福禄寿酒造の「一白水成 良心」特別純米を熱燗で。「熱々のスープと熱いお酒で温まって」という女将・えみさんの優しさが嬉しい。


土鍋ごはん

『傳』の華である土鍋ごはんにフレンチの華である肉料理をぶつけた荒井さん。ジビエ(今回はハト)のそれも内臓を使ったサルミソースと今がおいしい牡蠣という難しい食材を大胆に組み合わせた挑戦的なメニューです。宮城産の大ぶりの牡蠣でハトのもも肉のムースを包み、形を美しく整えて揚げた牡蠣フライは、普段食べ慣れた牡蠣フライとは別次元の味覚の世界。鉄分を感じるハトのレバーのソースも強い存在感です。「冬のフレンチらしい濃厚なソースのおいしさを楽しんでいただけたら」(荒井さん)。受け止めるごはんにはセリや春菊など冬の香り野菜を混ぜ込みました。えみさんお手製のぬか漬けとお味噌汁を添えて、コラボならではの料理ジャンルを超越した締めくくりに。ワインはサルミソースに合わせてイタリア、シチリア島エトナのネレッロ・マスカレーゼ種を使ったTerrazze dell’Etna Cirneco 2012。

デザート

長谷川さんも好物だという雷おこしからインスパイアされた荒井さんお手製のアイスクリーム。牛乳に炒ったお米とピーナッツ、塩少々を加えて雷おこしの味わいを再現しています。ここに荒井さんがお気に入りだという東京・御徒町『大心堂雷おこし』の特選おこし「古代」をぱらりと振りかけてテクスチャをプラス。旬の熟した柿とラム酒のゼリーを合わせました。女将・えみさんによるペアリングも最後までウィットに富んでいてなんと台湾の食後酒が登場。「埔桃酒」というこれは台中郊外のワイナリーで金香というローカルの赤ワイン用ぶどう品種を使ってつくられたフォーティファイドワイン。台湾にもネットワークを持つ長谷川さんだからこそ手に入れられる特別なものでワイン好きには嬉しいサプライズでした。

イベントを終えて

日本料理の『傳』とフランス料理の『オマージュ』。厨房から客席の様子がすべて見渡せる『傳』とキッチンとダイニングが完全に分離した『オマージュ』。抜群のエンターテイナーでもあり、その場の誰ひとりとして絶対に置き去りにしない場づくりの天才の長谷川さんと、ちょっぴりシャイで口数も控えめな荒井さん。江戸っ子らしいチャキチャキした女将・えみさんと、愛知県の地方都市で育ったほんわかした麻友香さん。一見正反対の要素を持つ2カップルによる共演は、まるでアンサンブルの音楽のように異なる旋律を奏でながら美しく調和していました。

「今日はマダムと女将のおもてなしを楽しんでいただきますので、脇役の僕たちの料理はテキトーで(笑)」。ゲストを和ませる長谷川さん節から始まった宴ですが、もちろん料理が適当などということはありません。ふたりの料理人は、異なる時間、異なる場所で奇しくも同じ言葉を口にしました。

「荒井さんは、しっかりと基礎を積み重ねて高い技術力を習得しているから、どんな料理にも遊びを加えることができて、それが食べる人を楽しませるゆとりにつながっているんですよね」(長谷川さん)。

「長谷川さんは、遊び心のあるメニューが有名ですが、きちんと日本料理の修業した人にしかできない料理をつくる方。凝ったプレゼンテーションよりもおいしさを優先するというはっきりしたコンセプトがあり、何をやっても受け止めてくれるゆとりがあるから安心感を持って挑戦できました」(荒井さん)。

お互いに「時代のトレンドに乗っただけではない、地道に下積み経験を重ねてきた技術力のある料理人を尊敬する」というふたり。さらに、お互い東京で生まれ、甘辛くて濃いめの江戸の味で育ったこともあり、どんな味をおいしいとするのかを理解しやすかったとか。

もともと和食が好きで日本料理にも知見のある荒井さんと、日本料理店でも経験のある麻友香さんによる『レストラン オマージュ』は、クラシックフレンチでありながら日本人の琴線に触れる料理とおもてなしがある、と長谷川さんは言います。「日本人で、荒井さんの料理を食べてストレートにおいしいと感じない人はいないのではないでしょうか」。

荒井さんのアプローチから感じられたのは、フランス料理と日本料理の双方へのリスペクトです。もともと好きな長谷川さんの料理だからこそ“長谷川さんらしさ”を変えることなく、やってみたかったことを出し切ったというメニューは、ヨーロッパ、アジア、日本と荒井さんの知識と経験が存分に発揮された、コース料理としても非常に完成度の高いものでした。変化を恐れず、進化を止めず、休むことなく経験を重ねてきた料理人にとってベテランになることは強みを増すことだ。大輪の花のようなふたりの姿からそんなことを感じました。荒井さんの引き出しはまだまだたくさんありそうで、長谷川さんの料理との相性もよく、季節を変えてまた開催してほしいと心から願います。

   

最終回となる第9回は、最後にふさわしくシリーズ初の“日本酒”がテーマ。宮城県塩釜市で伝統を守りつつ新しい料理にも挑戦する『和み処 男山』の佐藤強さんが東京にやってきます。「これまで通りノンアルコールペアリングもご用意いたしますが、お酒を召し上がれるとより楽しんでいただけるかもしれません」と長谷川さんが言うように、日本酒の魅力を満喫する一夜となりそうです。日本の食文化史に残るであろう前代未聞のガストロノミーエクスペリエンス「Dining Crossover produced by 傳」。次回もどうぞご期待ください。

【撮影・文】江藤詩文​

アメリカン・エキスプレスでは、本イベントを含め、あらゆるダイニング特典をご紹介しています

参加レストランのご紹介

外苑前駅から徒歩7分ほど、外苑西通り沿いのビル1階に店を構える日本料理店『傳』。料理と接客を通して“人を楽しませること”を追求し、家庭料理の温もりが伝わるような、新しいスタイルの日本料理店を築き上げる。木の温もりを感じさせるウッディーな店内は、14名が座れるロングテーブル、2~4名掛けのテーブル席、個室があり、記念日やデートなど、特別な日のご利用に最適。ぜひ一度、“長谷川流”の料理とおもてなしをご堪能いただきたい。

レストラン オマージュ

東京の下町・浅草、浅草寺を抜けた先の穏やかな住宅街にある二つ星フレンチ『レストラン オマージュ』。浅草で生まれ育ち、フランスの三つ星レストランで修業を積んだオーナーシェフ・荒井昇氏による、和のテイストを織り交ぜた繊細なフランス料理に出逢うことができる。店の外観はコンクリート打ちっぱなしのスタイリッシュな造りで、メインダイニングのある2階席には、気取らないやわらかな空気が流れている。浅草デートや家族との大切な一席にオススメ。海外ゲストのおもてなしにもふさわしい、浅草を代表するフレンチレストランに、ぜひ一度足を運んでいただきたい。

詳細を見る

ポケットコンシェルジュとは

レストラン検索からご予約、会計までワンストップでご提供する「ポケットコンシェルジュ」。食に精通したスタッフが自信を持ってお届けできるお店だけを厳選し、ご紹介。名店ならではの質の高い料理、そして充実のサービスでお連れ様にも満足いただけます。
ポケットコンシェルジュは、アメリカン・エキスプレスのグループ会社です。