Pocket Concierge

【特別レポート】
Dining Crossover produced by 傳
第9回 「傳 × 和み処 男山」

2022年、アジア全域を対象とするレストランランキング「アジアのベストレストラン50」で首位に立った日本料理店『傳』店主・長谷川在佑さん。年も押し詰まったころ、長谷川さんがホストとなり、彼と志を同じくする料理人を迎えて共にガストロノミーを創造する特別企画「Dining Crossover produced by 傳」第9回が開催されました。これは、アメリカン・エキスプレスとそのグループ会社であるポケットコンシェルジュが主催するイベントで、プラチナ・カード®︎会員様が参加対象です。

「僕たちがつくる料理を通じて、国内外の多くの方に、日本にはたくさんのすばらしい生産者さんがいることを知っていただきたい。そして、おいしい料理と楽しい時間を共有することで、お客様ご自身も飲食に関わる人々も元気にしたい。そんな経験を積み重ねて日本の食の未来をつくっていければと、このイベントを企画しました」と長谷川さんは語ります。

最終回(2022年12月)のコラボレーターは、宮城・塩竈の日本料理店『和み処 男山』店主・佐藤強さん。店内は存在感のあるエキゾチックな植物・タビビトノキをメインに、年の瀬にふさわしい松竹や南天、仏手柑などを組み合わせた清々しい空間で、「Dining Crossover produced by 傳」シリーズに託した思いを結実した長谷川さん。一年を締めくくるのにふさわしい温かな宴の全容をご紹介します。


『傳』 長谷川 在佑

日本料理店『傳』店主。家庭の温もりを大切にしながら、伝統的日本料理を洗練と親しみやすさを合わせ持つガストロノミーへと昇華させ、“和食”の魅力を世界に発信する。2022年版「世界のベストレストラン50」20位(アジア最高位)、2022年版「アジアのベストレストラン50」1位、接客を評価する「アート・オブ・ホスピタリティ賞」受賞。有名グルメガイド二つ星、女将・えみさんが2022年「サービスアワード」受賞。著書に『普段着の和食がおいしい理由』(新星出版社)など。

『和み処 男山』佐藤 強

日本料理店『和み処 男山』二代目店主。昭和60(1985)年、初代である父・春雄さん(故人)が当時としては非常に革新的だった「料理に合ったお酒と、お酒に合った料理」をコンセプトに掲げ、地元・塩竈の阿部勘酒造店が醸す名酒と料理のペアリングを楽しめる唯一無二の料理店として開業。幼少期から自然と料理に親しむ環境で育ち、調理師学校に進学後、東京の日本料理店や会席料理店、ホテルなどで研鑽を積む。現在は母である女将・美栄子さんと共に地域の生産者の協力も得ながら、日々新しいおいしさの創造に取り組んでいる。

未来に向けて日本の食を伝え繋いだ「Dining Crossover produced by 傳」の集大成

日本料理では使われることのなかったフォアグラを最中に挟み、お店で買ったままのような紙パッケージに詰めたり、スマイルフェイスのにんじんをサラダに乗せたり、誰もがひと目でわかる某ファストフードチェーンをモチーフにしたボックスに揚げたチキンを入れたり。若い世代や外国人にも伝わりやすいように、とにかく間口を広く敷居を低くして、今や世界中で愛される数多くのアイコンを創り出し、日本料理を楽しいものとして世界に発信し続けてきた『傳』。一方で遊び心の裏にある、しっかりとした修業に裏打ちされた高い技術力を伴う、日本料理の伝統と様式に則った献立には、常に日本文化への深い理解と敬意が込められていて、古典的な日本料理を愛する人をも魅了してきました。

最終回となる今回のお相手に、世界中誰だって指名できるステイタスとネットワークを持ちながら、華やかなスターシェフではなく、地方の街で真摯に和食に向き合う『和み処 男山』佐藤さんを選んだことからも長谷川さんの人柄を感じられた特別な一夜。今年(2023年)開業15周年を迎える『傳』が、これまでさまざまな苦労難題を乗り越えて国内外で得てきた知識と経験を余すところなく伝え、日本料理店としての『傳』の真価をあらためて知る、まさに集大成という言葉がふさわしいものでした。

先付け

東北地方の郷土料理である枝豆(やそら豆)をすり潰した鮮やかな緑色が美しいずんだ(豆打)。西京味噌漬けのフォアグラに合わせる相手として、佐藤さんは大豆らしい香りがあり、風味が濃厚な宮城産の秘伝豆を選びました。味噌漬けのフォアグラとリンクする秘伝豆の甘さを生かし、砂糖を控えて『傳』の白味噌で甘味をつけ、あえて食感を残して粒子を大きめに潰したずんだに、長谷川さんが少しだけ加えたのが刻んだ青じそしば漬け。わずかな酸味と塩味がずんだをキリッと引き締め、きゅうりのコリコリしたテクスチャが食べ進めるたびにリズムを生んで楽しい。ワインは、ずんだの芳醇なうま味に合うリッチな味わいのフランチャコルタ、Ca’ del Bosco cuvee prestige 45a edizione。

お椀

塩竈のタラの白子を白子豆腐に仕立てた佐藤さん。白子に昆布出汁を加えてすり胡麻で風味を加え、葛粉で練り上げて固めた豆腐に粉をはたき、表面はカリッと香ばしく、中はトロトロ熱々の絶妙な火加減で揚げ焼きにしています。合わせるソースを手がけたのは長谷川さん。飛鳥時代に貴族が食べたという牛乳を使った鍋の出汁「飛鳥汁」を範に取りつつ、現代人の好みに合わせてコクのあるベシャメルソースに仕上げ、国産の黒トリュフを混ぜ込みました。美栄子さんが選んだお酒は阿部勘酒造店「阿部勘」(以下、お酒はすべて阿部勘のため略)純米吟醸 うすにごり生酒 かすみ。宮城の新しい酒造好適米「吟のいろは」を使った火入れ前の生酒で、フレッシュでフルーティな味わいが特徴です。

凌ぎ

『傳』のシグネチャーディッシュのひとつDFC(傳タッキー)。『和み処 男山』では、なんと長谷川さん公認で春は山菜、夏はとうもろこし、秋はきのこ、冬は牡蠣と四季折々の食材を詰めて「タッキー」として提供しているとか。「本家でお出しできる日が来るなんて」と、佐藤さんは今が旬の三陸の牡蠣の中でも極上のものをこの日のために用意して、手書きのメッセージを添えました。『和み処 男山』では、もち米に針生姜や大葉、オイスターソースを加えて調味しますが、長谷川さんは「ツヨシ(佐藤さん)が最高の牡蠣を手に入れてくれたから」と、丸ごとシンプルな酒蒸しに。えみさんはこれにミネラル感のあるイタリア・ウンブリア州の白ワインZanchi Majolo 2016を合わせました。

造里

『傳』では普段使うことのない本マグロ(クロマグロ)。塩竈で水揚げされても高級食材として豊洲市場へ運ばれることがほとんどですが、佐藤さんは地域の協力を得て、4週間寝かせたとっておきのものを入手してくれました。「醤油皿をお出しするのではなく、料理人側がちょうどいい塩梅をコントロールする長谷川さんのスタイルに倣いたい」と、サイズが不揃いで出荷できない地元の牡蠣を煮干しにして、塩竈で造られた醤油に1ヵ月ほど漬け込んだ自家製の牡蠣醤油で赤身と中トロを軽いヅケにして、辛味大根をあしらっています。お酒は「マグロの脂にはこれ」と美栄子さんが太鼓判を押す純米吟醸 亀の尾。東北地方で特によく使われる酒造好適米「亀の尾」を100%使用しています。

焼物

「生産量が少なく市場にあまり出回らないのですが、今の時期ならではの生酒を楽しんでいただきたくて」と、美栄子さんがわざわざ蔵元から直接取り寄せてくれた純米吟醸発泡にごり酒。開栓するやシュワッと軽やかな音と共に瓶口から溢れ出す、「日本酒は生きもの」と実感させられるお酒です。これに香り高い料理を合わせたいと、チーム男山はお酒が一升入る「一升ます」を40個も運び込みました。桜の香りの煙が立ち上る玉手箱の中身は、特別な日を彩る祝祭感に溢れた海のものと山のものの取り合わせ。塩釜の冬サワラの塩焼き、宮城・色麻(しかま)町のえごま豚バラに地元の醤油麹を塗った八幡巻き、長谷川さんが鴨の脂でコンフィにした黄金かぶの味わい豊かな3点盛り合わせです。

酢の物

『傳』のシグネチャーディッシュ、傳サラダ「畑の様子」は酢の物として佐藤さんに託されるかたちで登場しました。いつもの野菜ではなく佐藤さんと同世代(アラフォー)で共に地元で頑張る生産者、「浅野農園」浅野道美さんのベビーリーフやハーブをかつお出汁の土佐酢と塩昆布、太白胡麻油で和え、塩竈・浦戸石浜で自身の哲学に基づき海苔を育てる内海諭さんが独自の割合で青海苔と黒海苔を配合して創り上げた板海苔を添え、ゲストが自分の手でそれを巻きながら味わいます。佐藤さんが料理の力でつなぐ大地の生産者と海の生産者と食べ手。長谷川さんイズムが継承されています。お酒は2022年12月4日に搾ったばかりのこの時期限定の貴重な大吟醸を。

煮物

「修業先の料亭では、年末のお節仕事が終わると旦那様が従業員全員にねぎま汁を振る舞ってくれました」とえみさん。ねぎま(鍋・汁)は江戸時代が発祥とされる江戸料理のひとつ。造里で取り分けておいた塩竈の本マグロの大トロにひと塩して、佐藤さんの地元の仲間の生産者「千葉農園」千葉英明さんが育てた伝統野菜「仙台曲がりねぎ」を長谷川さんの香り高い出汁でさっと煮ました。醤油でキリッと仕上げた透明な美しい出汁はまさにいなせな江戸の味。今が旬の甘みを増した、ふくよかでみずみずしいねぎがコクのある大トロの脂によく合います。熱い出汁に温かいお酒をと、美栄子さんとえみさんがアイデアを出し合い、香りのいい純米吟醸 亀の尾を上燗(ぬる燗と熱燗の間の温度帯)で。

食事

「本日のメインディッシュ」として登場したのは『和み処 男山』女将・美栄子さん手ずからのお惣菜。里芋やレンコン、ニンジン、ゴボウ、シイタケといった野菜と塩竈のかまぼこ(魚のすり身を揚げたさつま揚げのようなもの)の煮付けや、ささがきゴボウと糸こんにゃくのきんぴらは、出汁に砂糖で甘味をつけ醤油で照りを出した、甘じょっぱくてご飯が進む東北の家庭の味です。三陸の昆布とふのりを大根やにんじん、きゅうりと合わせた醤油漬けや干し大根と生姜の甘酢醤油漬け、きゅうりとかぶの浅漬けと箸休めの漬け物もたっぷり。これに土鍋で炊き上げたホワホワと湯気の上がる炊き立ての白ご飯を頬ばる幸せといったら。お酒はこの夜のためだけに2022年12月15日に搾ったばかりの美栄子さんの煮物に合わせた特別な純米吟醸 辛口。

甘味

『傳』のリピーターならもしかして食べたことがあるかもしれない、サプライズで時々提供されるプリン。開業当時から長谷川さんの右腕として活躍し、控えめで穏やかなキャラクターと、長谷川さんが絶大な信頼を置く料理の腕の確かさで、多くのファンを持つ望月礼さんが手がけるものです。正月らしく柚子釜に見立てた柚子の皮に望月さんのプリン生地を敷き、柚子のシャーベット、ゼリー、フレッシュな果肉を乗せ、フタの部分を開けた時に香りが立ち上るように振り柚子(柚子の皮をおろしかける)で香気をプラス。ここで美栄子さんから「お好きなお酒をどれでもお代わりしてください」と嬉しいご提案が。阿部勘酒造店のお酒を心ゆくまで満喫できるお酒好きにはたまらないエンディングでした。

イベントを終えて

やっぱり『傳』は唯一無二の特別な存在でした。これまで国内はもとより海外にも多く足を運び、ひとりの料理人や一軒のレストランが地域を変えその土地の未来を創っていく食のパワーを、情報としてではなく体感として得てきた長谷川さん。人種も性別も国境もすべてを超える「料理の力を信じている」。その真っ直ぐな思いは日本の地方にもしっかりと伝わっていました。

東日本大震災では浸水の被害に遭い、復興したら今度はコロナ禍で行動制限が課され思うように営業もできない。たくさんのダメージを受けながらも、人間の命を繋ぐ「料理人」という美しい職業を手放すことなく進んできた佐藤さんへ、長谷川さんが無言で贈ったエールのような一夜。「『傳』に戻ってくることがひとつの目標だったので、多くの有名なシェフたちと名前を並べていただくこんな光栄なかたちでここに来られるなんて泣きそうです」と感無量な佐藤さん。コロナ禍以前は年に何度か『傳』に足を運び勉強をさせてもらっていたそうです。

早世した父親の思い、父親代わりのような存在の阿部勘酒造店15代目・阿部晶弘さんの思い、地方で共にがんばる生産者や料理人仲間の思い。たくさんの思いを託された佐藤さんは、地元・塩竈の食材を主役にした料理や、母親であり『和み処 男山』女将・佐藤美栄子さんの手料理にそれを投影しました。

料理と同様にドリンクにも思いが込められていました。ペアリングのワインとノンアルコールドリンクは『傳』女将・長谷川えみさんが、日本酒は美栄子さんが担当。ゲストの美栄子さんを主役にしつつ『傳』らしさとうまく調和させていくえみさんのさりげない気配りの美しさ。和らぎ水(日本酒のチェイサー)にまで阿部勘酒造店の仕込み水を用意してくれた美栄子さんの温かさ。

アジアトップで二つ星を持つ日本を代表する店で開かれる特別なイベント。このシチュエーションでお惣菜を出すことにとまどったり、高級食材に頼ったりする料理人もいるはずです。けれども長谷川さんから感じたのは、美栄子さんの料理への信頼感、そしてそれを受け止めてくれるという食べ手への信頼感。これが『傳』を特別なものにしているのだと思います。

「Dining Crossover produced by 傳」シリーズを通して長谷川さんがほんとうにやりたかったこと。それがこの最終回で実を結びました。それまで前例のなかった型破りな日本料理を創造して「これは正統な日本料理ではない」と批判も浴びたやんちゃな青年は、いま名実共に日本の食の伝統と文化を背負って立つ第一人者になったのだと思います。『傳』がなければ「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録された時期も遅れただでしょうし、長谷川さんが仲間を巻き込んで起こしたムーブメントがなければ、世界中の旅行者が食事を目的に来日するインバウンドの成長も遅れたでしょう。

2022年というこの特殊な年に、日本のガストロノミー界で起こったエポックメイキングなガストロノミーエクスペリエンス「Dining Crossover produced by 傳」。このクロニクルの目撃者となったすべてのゲストはほんとうに幸運だったと思います。イベントに参加された方も参加できなかった方も、長谷川さんの今後の活躍を見守りつつ、バックナンバーを通してこのイベントの意義を共有していただけたら嬉しいです。

 

【撮影・文】江藤詩文​

アメリカン・エキスプレスでは、本イベントを含め、あらゆるダイニング特典をご紹介しています

参加レストランのご紹介

外苑前駅から徒歩7分ほど、外苑西通り沿いのビル1階に店を構える日本料理店『傳』。料理と接客を通して“人を楽しませること”を追求し、家庭料理の温もりが伝わるような、新しいスタイルの日本料理店を築き上げる。木の温もりを感じさせるウッディーな店内は、14名が座れるロングテーブル、2~4名掛けのテーブル席、個室があり、記念日やデートなど、特別な日のご利用に最適。ぜひ一度、“長谷川流”の料理とおもてなしをご堪能いただきたい。

和み処 男山
(なごみどころ おとこやま)

阿部勘酒造店のお酒と料理の(現在で言うところの)ペアリングを昭和60年開業時より提案する日本料理店。春は山菜や白魚、夏はウニやとうもろこし、秋はキノコや鮭、冬は白子や牡蠣といった食材を季節ごとに登場するお酒に寄り添う料理に仕立てている。通常はディナー営業のみだが、不定期開催で『食堂 男山』としてランチタイムにラーメンや郷土料理のはらこ飯などを提供。東北本線塩釜駅よりタクシー5分、仙谷線本塩釜駅より徒歩5分。

ポケットコンシェルジュとは

レストラン検索からご予約、会計までワンストップでご提供する「ポケットコンシェルジュ」。食に精通したスタッフが自信を持ってお届けできるお店だけを厳選し、ご紹介。名店ならではの質の高い料理、そして充実のサービスでお連れ様にも満足いただけます。
ポケットコンシェルジュは、アメリカン・エキスプレスのグループ会社です。

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