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TOP-CHEF-INTERVIEWS
「日本の食文化を世界に発信していく」。そんなポケットコンシェルジュのビジョンから始まったインタビュー特集です。日本で活躍する一流レストランのシェフを取材し、レストランに対する思いや、料理人としての考え方などを紹介していきます。

第一回

『レストラン カンテサンス(Quintessence)』岸田 周三

初回にご紹介するのは、品川・御殿山のフレンチ『レストラン カンテサンス』のオーナーシェフを務める、岸田周三氏。ミシュランガイド東京が2008年に発行されて以来、10年連続で三つ星を獲得するという快挙を成し遂げ、2016年版「アジアのベストレストラン50」では20位に輝いた。日本国内のみならず、世界からも注目を集める圧倒的な料理人だ。そして今年、2016年5月に『カンテサンス』が10周年を迎えた今、料理人・岸田周三氏のレストランや料理に対する想いを語っていただいた。

Pick up topics
1. フランスでの修業後、自分なりの料理を作るために日本へ帰国
2. 恩師から学んだ哲学が、「おまかせ」のこだわりに繋がっている
3. すべての条件が揃ってはじめて、美味しい料理が完成する

カンテサンス岸田シェフの正面写真

フランスでの修業後、自分なりの料理を作るために日本へ帰国

―――2016年の今年、『カンテサンス』は10周年を迎えられましたが、ご自身でレストランをやろうと思ったきっかけは何かあったのでしょうか?

自分でレストランをやりたいという夢は、子どもの頃からずっと持っていました。料理をやっている人なら、誰もが願うことだと思います。そして私の場合は、フランスの修業時代から「自分のやりたいレストラン」のイメージがハッキリと決まっていたので、それを実現してくれるオーナーさんを探していたところ、希望する条件をすべてのんでくださったのが、株式会社グラナダの下山社長でした。おかげで、2006年白金高輪に、『カンテサンス』をオープンすることができたのです。下山社長には、感謝しても仕切れないくらい、恩義を感じています。

―――フランスで修業されていたわけですが、なぜ日本でレストランを開くことを選ばれたのでしょうか?

レストランをやるなら日本でやりたい、日本しかないと思っていました。私は日本人ですから、フランス人にはなり切れないということを、フランスですごく感じていたのですね。だからこそ、自分のルーツを大切にしたかった。日本には、日本にしかない食材や文化がたくさんあるので、日本人ならではの発想とフランスで学んだ技法を活かせば、今までになかった自分なりの料理が生み出せるはずだと強く信じていました。

―――自分なりの料理とは?

フランスで学んだことがベースにはなっていますが、「プロデュイ(素材)」「キュイソン(火入れ)」「アセゾネ(味付け)」のこれら3つが核となっています。フランスの修業中に、これら3つが一番大事な部分なのだと自分なりに感じ取ったわけです。そして、『カンテサンス』のテーマとして、10年間徹底的に追求し続けています。

ミシュラン三つ星『カンテサンス』の岸田シェフ

quote01

恩師から学んだ哲学が、「おまかせ」のこだわりに繋がっている

―――フランスの修業時代のことを、詳しく教えてください。

私は、フランス・パリの三つ星レストラン『アストランス(Astrance)』にて、オーナーシェフであるパスカル・バルボ(Pascal Barbot)氏の元で修業していたのですが、パスカル氏に出逢って、とても衝撃を受けました。

―――それはどんな衝撃だったのですか?

それまで料理人としてやってきたことや、概念を大きく覆されました。シェフの料理をいかに忠実に再現するかが重要視されていたそれまでのレストランと違って、『アストランス』では、同じ料理を作っていても、毎回作り方が少しずつ異なっていました。シェフではなく、毎日食材に触れている料理人一人一人が、毎日変わる食材の状態を見極め、自分の頭で考え、常に「アジャストする」ことを求められたのです。

―――シェフではなく、料理人が作り方を任されていたということですか?

そうです。たとえば同じ鯛でも、昨日届いた鯛と今日の鯛とでは、まったく同じではないので、塩を振る量を変えたり、熱を加える時間を変えたりと、作り方を微調整する必要があるわけですが、それは料理人の判断です。あれをしろ、これをしろと、パスカル氏は指図しませんでした。料理人に自分で考えさせ、判断を委ね、「アジャストする」力を求めていたので、かなり鍛えられたと思います。

―――鍛えられた経験が、現在の料理に活かされているのですね?

そうですね。修業時代に苦労したおかげで、帰国してフランスの食材から日本の食材に切り替わった時に、気候も食材も異なる日本でも、常に「アジャストする」ことで、日本の食材を自分なりのフランス料理に昇華することができました。レシピではなく、物の考え方や料理の基本、つまり「本質」を理解していれば、料理を美味しくするためのセオリーを自分の料理に活かすことができると思います。『アストランス』出身の料理人で大成している人が多いのは、「本質」を求めるパスカル氏の訓練のおかげですね。

―――『カンテサンス』出身のシェフたちも、ミシュランの星獲得など、成功されている方が多いですよね。

嬉しいですね。「本質」を見極めることの重要さを理解し習得してもらえれば、大成する料理人になれると思っています。『カンテサンス(Quintessence)=本質」という店名は、修業時代からすでに決めていましたし、10年間今も変わらずこの信念を貫いています。パスカル氏から学んだ「本質」を求める哲学が、今もカンテサンスの根底にあるのです。

カンテサンスのショープレートカンテサンスのショープレート|出典:ポケットコンシェルジュ

―――『カンテサンス』のコースは、「おまかせ」を追求していますよね?

『カンテサンス』の特徴である「完全おまかせ」のスタイルは、この10年間ずっと変わっていません。そうでなければ、料理のクオリティが保てないからです。「本質」を追求するからこその「完全おまかせ」スタイルです。その日の一番美味しい食材を知っているプロが提案するものが、本当に美味しい料理なわけですから、お客様がオーダーしてから料理を作るのではなく、この料理を、この人に食べてほしいと朝から考えて、時間をかけて、一人一人の来店時間に合わせて作った方が、絶対に良い物が出せます。それは間違いありません。断言できます。

アラカルトのように、メニューを先に用意してしまってから料理を作るスタイルだと、食材がベストとは言えない状態だったとしても、メニューに書いてしまったからという理由で作らざるを得なくなり、本当に美味しい料理を提供することはできなくなります。それはナンセンスだと思いませんか。だからこそ、『カンテサンス』は「完全おまかせ」なのです。そうでないと、美味しいものは出せません。
カンテサンスの白紙のメニューカンテサンスからのメッセージ|出典:ポケットコンシェルジュ

―――「おまかせ」の中のスペシャリテで「山羊乳のバヴァロア」が有名ですが、これはどういうきっかけで生み出された料理なのですか?

これは、フランスにいるときに毎月ホームパーティーを開いていたのですが、そこで料理人同士で自分なりに考えた料理を出し合っている中で思いついた料理です。もともとは、「塩とオリーブオイル」がテーマになっていて、当時フランスで食べた塩とオリーブオイルがすごく美味しくて、ビックリしたことがきっかけになっています。特に塩に関しては、全ての料理に使うわけですから、塩が美味しくなければ少しずつ料理のレベルが下がっていきます。逆に、塩がものすごく美味しければ、料理のレベルも少しずつ上がっていくわけです。ただ、調味料というものはあくまでも主役にはなりえませんよね。では、その塩の素晴らしさが全面にでる料理を考えたらどうだろう・・・食材と調味料の主従関係を逆転させて、調味料を主役にした料理を作ってみようと思ったのです。

「山羊乳のバヴァロワ」
カンテサンスの山羊乳のバヴァロワ出典:カンテサンス|ポケットコンシェルジュ

組み合わせる食材も、すごくシンプルにしています。京都の山羊乳で作ったバヴァロアに、ユリ根やマカダミアナッツを削ったものが乗っているのですが、全部、味としては非常に優しいものばかりです。それで、食べてみると塩の食感がすごく際立ちますし、オリーブオイルの香りがすごく際立っています。この料理には、「これが、私が店で使用する調味料ですよ。皆さんに自信をもって提供している調味料ですよ」という想いが根幹にあります。それを皆さんに分かりやすく召し上がっていただけるように作りました。

―――「メレンゲのアイスクリーム」も定番ですよね?

そうですね。メレンゲって日本で食べた記憶はあまりないのですが、フランスのパン屋さんに山積みにしてあるのです。枕みたいな大きさのメレンゲのお菓子が山積みになっているのですよね。これはフランスのどこのパン屋さんにも大体あります。初めはなんだろうと思って食べるのですが、まあ、ひたすらメレンゲですよね。メレンゲの半分は砂糖なので甘いのですが、後は卵白です。ひらすら甘くて気持ち悪くなり、これは食べられたものじゃない、と残してしまうのです。でも、メレンゲが本当に悪いのかな?と、その時にふと思ったのです。美味しいものは真似をすることしかできませんが、美味しくないものというのは改善点が存在します。だから、この改善点をクリアできれば、今あるものよりも美味しいものを作ることができるのではないかと思ったのです。

「メレンゲのアイスクリーム」
カンテサンスのメレンゲのアイスクリーム出典:カンテサンス|ポケットコンシェルジュ

では、メレンゲの美味しくないところって何だろうと、すごく考えました。まず、甘すぎるというのが一つありますよね。それから、口の中がパサパサする。あと、そのフランスで出会ったメレンゲは量も多すぎる。それらを全部改善する方法はないかなと考えました。

そこで、まずは同じようなメレンゲを作った後に粉々に砕いて粉にします。それを、アイスクリームの生地の中に溶かしこんで、砂糖の代わりにする。メレンゲをグラニュー糖ととらえれば、調味料として使えるようになりますよね。メレンゲの焼けた香ばしさというのは、他に似通うものなく美味しいなと思います。また、メレンゲの量で甘さをコントロールすることができます。そして、パサパサとした粉っぽい食感も、アイスクリームのベースに水分がたくさん入っているので、なめらかな食感になるわけです。改善点を全部クリアにすることによって、全く新しいデザートができあがりました。そして、オープンから今まで作り続けています。

カンテサンス岸田シェフのインタビュー

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すべての条件が揃ってはじめて、美味しい料理が完成する

カンテサンス岸田シェフこだわりの石の壁

―――オープン当初、日本にはまだミシュランがありませんでしたが、意識はされていらっしゃいましたか?

フランスから日本に帰国した当時は、たしかにまだ日本にミシュランはありませんでした。ただ、日本に帰って来た理由として、日本にもミシュランがあったとしたら三つ星をとれるような、世界に対して発信できるレストランを日本に作りたいという想いがありました。フランスの三つ星レストランのコピーの料理を作るのではなく、オリジナリティのある、ここにしかない料理、「この料理を食べる為には、わざわざ日本に来なければならない」という料理を作ることによって、初めて三つ星のクオリティになると思っています。

―――ここにしかない料理の、世界へのアピールポイントを教えてください。

全部オリジナリティがあると思っていますが、日本、そして東京の素晴らしさを伝えたいですね。せっかく東京に来たからには、東京ならではのものを食べていただきたいです。フランスにはそれぞれの町に特産物があって、土着の食材を使った名物料理があるのですが、東京にはこれと言って特産物がありません。しかし、東京には世界一のインフラが存在しているので、日本全国を地元にすることが可能なのです。

―――東京の強みが、世界一のインフラということでしょうか?

たとえば、現在は四国の魚を毎朝仕入れているのですが、早朝に四国で獲れた魚が、約6時間後には『カンテサンス』に届きます。たった6時間で食材が届くということは、四国・徳島のレストランがランチで提供する朝獲れの魚と、『カンテサンス』がランチで提供する魚は、まったく同じ食材です。つまり、東京は日本全国の素晴らしい食材を全部集めて、全部使うことが可能で、日本全国を地元にすることができるということ、それが強みなのです。全国どこでも空港さえあれば、地方の食材も東京の地元の食材と言えるのです。

―――実際に、産地まで直接仕入れに行かれることもあるのでしょうか?

もちろん、農家さんの見学など、産地へ行くこともあります。ただ最近は、生産者の方からご連絡をいただいて、直接食材を売り込んでいただく機会が多くなりました。有難いことに日本だけでなく海外からも、なんとFacebookを通してご連絡がくることもあります。そうして得た食材は、仲介業者を通していないので、とても新鮮で安価です。今の時代、ITを駆使すれば、世界中のレストランと農家が直接取引することができ、今までになかった商売が可能になります。

―――独立し、2013年に現在の御殿山に移転されたことが、大きなターニングポイントになっていると思うのですが、きっかけは何だったのでしょうか?

移転の目的は一言で、「料理のクオリティを上げて、より美味しいものを作るため」です。そのための方法が、独立と移転でした。日々料理をしているうちに、もっと自分のやりたい料理がしたいという想いが強くなり、新しい調理器具や設備などが必要になっていったのですが、自分の理想のレストランを作るためには、独立してオーナーシェフになるしかありませんでした。レストランとしては異例のことですが、厨房がダイニングとほぼ同じ広さになっているのも、オーナーシェフだからこそできたことです。

―――レストランが周りにほとんどなく、アクセスが良いとも言えないこの場所を、あえて選んだのはなぜですか?

レストランの主戦場である港区でも中央区でもない、品川という場所で再スタートすることに、たしかに不安はありましたが・・・外れたエリアとはいえ、駅からは徒歩10分ほどで、車ならすぐの距離ですから、少し足を延ばせば来られる場所です。「ここで来てもらえなかったら、自分の料理はそれまでだ」と思いました。自分に言い訳をしないためにも、心を決めました。「私の料理人人生はここで終わる」という気持ちで。

ゆったりと過ごせるカンテサンスのダイニング

―――シックな内観デザインへのこだわりも教えてください。

料理と同じで、シンプルであって「本質」をとらえたものでありたいという想いが込められています。「本質」を備えていれば、過度な装飾は必要ないという、料理のコンセプトと全く同じです。個室2つとダイニングを合わせて30席の店内ですが、装飾はほとんどありません。お花も、絵画も、音楽を流すスピーカーもありません。ただ、一つ一つの材質にはすごくこだわっていて、一つ一つの素材にこだわるという料理のコンセプトと一貫しています。

―――すべてに『本質』を求め続ける岸田さんの、今後の展望を教えていただけますか?

この10年、「本質」を求め続け、料理を作り続けてきましたが、それは今後も変わることはありません。流行りの食材や調理法などに影響を受けることも、方向性がブレることもありません。私は流行を発信する者であって、受け取る側の人間ではないからです。人の影響は受けません。だから、今後も変わることはありません。

―――変わらない勇気も必要ということですね。

はい。そして今後も、美味しい料理に妥協はしたくありませんね。ただ、それにはお客様の協力が必要不可欠です。料理人の技術があり、充実した厨房があり、居心地の良いダイニングが揃っていても、お客様一人一人の理解と協力が得られなければ、本当に美味しい料理を完璧に提供することは不可能だからです。

―――最後に、世界中から訪れるすべてのお客様に伝えたいことはありますか?

「美味しい料理を提供したい」という料理人の想いと、「美味しい料理が食べたい」というお客様の想いは、方向性は同じです。だから、目的を果たすためにも、ご予約時間に遅れずにご来店いただいたり、お苦手食材を事前にお知らせいただいたり、お食事中は離席のタイミングを計っていただいたりと、レストランに訪れているすべてのお客様が美味しい料理を食べられるように、最低限のマナーは守っていただきたいです。この重要性をお客様に理解してもらうことは、レストランにとって今後も重要な課題です。

カンテサンスロゴ
<シェフからの一言>
2016年に『カンテサンス』は10周年を迎え、ミシュランガイド東京2017年では10年連続で三つ星をいただきました。大変嬉しく思います。日々試行錯誤しながらやって来ましたが、これもひとえに、スタッフ・生産者・業者の方々・そしてお客様のおかげだと思っています。これからも変わない姿勢で頑張っていこうと思いますので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。

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【聞き手】白石直久
【文章】濵本亜沙子
【撮影(人物・ロケーション)】キミヒロ

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<『レストラン カンテサンス』へのアクセス>

・JR・京浜急行電鉄「品川駅」高輪口より、徒歩10分
・京浜急行電鉄「北品川駅」高輪口より、徒歩5分
※品川駅と五反田駅から、駅とガーデンシティをつなぐ無料のシャトルバスが出ています。

カンテサンス建物
ガーデンシティ品川 御殿山の外観。
建物の中へは入らず、建物沿いに左奥へ進む。
カンテサンスのエントランス
カンテサンスのエントランス。
建物の外から入る。
Restaurant Data
店名: レストラン カンテサンス
住所: 品川区北品川6-7-29 ガーデンシティ品川 御殿山 1F
営業時間: Lunch12:00~15:00(L.O.13:00)
Dinner 18:30~23:00(L.O.20:00)
定休日: 日曜日を中心に月6日
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