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「日本の食文化を世界に発信していく」。そんなポケットコンシェルジュのビジョンから始まったインタビュー特集です。日本で活躍する一流レストランのシェフを取材し、レストランに対する思いや、料理人としての考え方などを紹介していきます。

第七回

『炭火焼肉 なかはら』中原健太郎

厳選された高級和牛のおいしさを巧みに表現し、日本だけでなく海外のグルマンからも人気を集めている『炭火焼肉 なかはら』。店主の中原氏は、和牛のすばらしさや日本の職人の魅力を伝えるため、近年その活躍の場を世界に広げており、日本の焼肉業界で常に注目され続けている存在である。今回のインタビューでは、中原氏の焼肉店に対する思いやこれからの焼肉業界のあるべき姿について語っていただいた。

Pick up topics
1. 経営難の焼肉店を引き継ぎ、肉の“仕入れ力”で人気店に成長
2. 肉のプロフェッショナルを育成し、焼肉業界に変革を起こす
3. 自ら厳選した和牛を手切りし、おいしさの限界に挑戦する

炭火焼肉 なかはら_中原シェフインタビュー中

経営難の焼肉店を引き継ぎ、肉の“仕入れ力”で人気店に成長

――― 焼肉店を始めたきっかけは何だったのでしょうか?

いまから15年ほど前の話になるのですが、家内の実家が経営していた『炭火焼 七厘』という店を引き継ぐかたちで始めました。『七厘』は、偶然にも僕が大学生のころによく通っていた焼肉店だったのですが、当時はかなり繁盛していましたね。ただ、いざ引き継ぐとなった時には、お客様があまりいらっしゃらなくていつもガラガラの状態でした。日本で狂牛病が流行った時期でもあったので、このころ多くの焼肉店は経営難に陥っていたのではないでしょうか。

――― 店を立て直すにあたり、初めはどのようなことに取り組まれたのですか?

僕は、飲食店といえば居酒屋かバーのアルバイトしかしたことがなく、ほぼ素人の状態で始めたので、とにかく自分自身が思いつく限りのことを試行錯誤しながら改善していきました。主に改善したのは肉の仕入れ方法ですね。

それまでは電話一本で注文して、届いたものをスライスして出していただけだったのですが、一度、現場を見てみようと思い、芝浦に一人で足を運びました。つまり、鮨屋が魚を仕入れに築地へ行くのと同じように、食肉市場がある芝浦に行ったわけです。実際、芝浦の食肉市場は、主に牛の屠畜をしたり、枝肉(※)の解体をして部位ごとに切り分けたりする場所なんです。だから一般の人は入れないのですが、当時の僕は知識がなかったため、その事実を知らずに足を踏み入れたんです。

まずは、築地に行く感覚で朝5時に芝浦に行ったのですが、誰も居ないし市場も開いていない。7~8時ぐらいからようやくチラホラと業者さんが入って来て、そこで、ある業者さんを捕まえて「すみません、肉売ってください」と言ったんですけど、初めは無視されましたね。それでも毎朝通って、3日ぐらい経ったころ、「いくらで買うんだ」と聞かれ、「ひと月で30万円ぐらいで仕入れます」と言ったら笑われました。30万円で和牛の肉を買うならバラ肉一枚分の値段なんですよ。そのときは肉の相場も知らなかったので、何でこの業者さんは笑っているのだろうと思っていました。

焼肉店用の肉って、そこそこ大きなブロックでないと買えないんですよね。質の良い肉をそれなりの量で仕入れるなら、半丸(半頭分)100〜200万円はします。そして、通常の肉の仕入れは、肉のブロックを扱う卸業者がいて、その業者から自分の店用に切り分けてもらったものを持ってきてもらうんです。

そんな感じで、芝浦に6〜7日ぐらいしつこく通っていたら、ある業者さんが僕のために白衣と長靴と包丁を用意してくださいました。「教えてやるから自分の分、切って持っていけ」と言っていただけたんです。そこで僕はカメラと三脚を持っていって、業者のおじさんが肉をばらすのを必死で見て勉強しました。このとき初めて教えていただいた部位が、バラ肉です。ここでは、肉の掃除の仕方や、一枚のバラ肉は、いろいろな細かい部位に分かれることなどを教わりました。あと、肉をばらすと端材がたくさん出て、実際に食べられる部分はかなり少なくなることも知ることができました。キロいくらとか、歩留まりがどのぐらいかなどを学んだのもそのときです。

――― 店での提供スタイルも改善されましたか?

そうですね。まず、肉を仕入れたあとに、いろいろな工夫をしました。『七厘』を引き継いだ当初は、あまりお客様がいらっしゃらなかったため、大きなブロックを1日で使い切ることが不可能なので、生のまま都度スライスする方法がありませんでした。なので、初めはどのようにして肉を冷凍すればいいのかを考えました。大きな肉のブロックを必要な分だけ切って、残りを冷凍して何度も出し入れするのはよくない。では、スライスした状態で冷凍した方がいいのか、ブロックをある程度の大きさでカットして冷凍した方がいいのか、それとも業者さんにカットしてもらい、小さいパックで少しずつ持ってきてもらった方がいいのかなど、どうやったら一番いい状態で肉が提供できるのかを考えました。

メニューに関しては、初めはカルビ、ロース、ハラミ、タンの4つだけで構成していました。当時は僕自身も牛肉について勉強中だったのと、お客様も出てきた肉に対しての知識や情報が今ほど豊富でないという状態だったので、細かい部位に関してはメニューにのせず、僕が学んだものをお客様に説明していくスタイルで営業していました。そして、店が徐々に軌道に乗ってきたころに、肉の業者さんから枝肉の一頭買いをすすめていただたんですね。これにより厳選した肉や希少部位を仕入れることができたのと、お客様からおまかせで見繕って欲しいというご要望が多く挙がったため、いまのような「おまかせコース」のスタイルになりました。このころには、いわゆる人気店と呼んでいただけるまでに成長することができました。

肉の盛り付けに関しては、当時の焼肉店は同じ厚さの肉を凍らせたものを重ねるのが美しいという風潮がありました。ただ、僕にはどうしてもおいしそうに見えなかったので、カットした肉をぐにゅっと曲げて盛り付けることにしたんです。これは焼肉業界では僕が最初に取り入れた盛り付けだと思います。いまではいろいろな焼肉店で見かけるようになりましたね。

※枝肉:牛1頭から頭部、皮、内臓などを取り除いた状態のもの

炭火焼肉なかはら_中原氏 炭火焼肉なかはら_コメント

肉のプロフェッショナルを育成し、焼肉業界に変革を起す

――― 実際に芝浦に行ってみて、気づいたことはありましたか?

芝浦に行って気づいたことは、実際に店でお出ししていた肉よりも、食肉市場で見た肉の方が状態が良くてすごくおいしそうに見えるということでした。つまり、業者さんに持ってきていただいた肉を、店側の管理の問題で劣化させてしまっていることが分かったんです。僕はそれ以来、毎日芝浦に通っていましたが、僕の他に飲食店の人が芝浦に来て勉強する姿を一度も見たことがありません。和食屋さんや鮨屋さんは、自分の足で築地に行って素材の目利きをして仕入れ、自分の手で魚をさばいて、より鮮度の良い状態でお客様にお出しするところまでやっているのに、焼肉店はそうではない。僕はこの怠慢な業界を変えないといけないと、そのとき思ったんです。

――― 焼肉業界の在り方を変えるために、どのようなことが必要だとお考えですか?

職人の存在ですね。お鮨屋さんのように職人がいる焼肉店が必要です。焼肉店は、世間ではまだまだ居酒屋のように利用する店という認識があると思います。もちろん、居酒屋感覚でカジュアルに利用する店も必要ですが、回転鮨と高級鮨があるように、焼肉でも本当においしい肉を出す店が必要だと考えています。そして、本当においしい肉を出すのであれば、肉に関するさまざまな知識があり、お客様の食事のスピードに合わせ、お肉を召し上がるまでの時間を計算してカットし、味つけして提供することが必要です。このように、初めから最後までやるのが職人の仕事だと思います。

そして、焼肉店の職人は、フレンチやイタリアンのシェフ、鮨職人などのように、憧れをもたれる存在でありたいと考えています。よく、今度独立して店を出す人はあそこのレストラン出身なんだという話題が持ち上がることがありますが、焼肉店にはそれがありません。これは、いままでの焼肉店が修業して技術を学びたいと憧れられる職業でなかったことが原因だと考えています。なので、焼肉店の職人をプロフェショナルと呼ばれるポジションにまで持っていくことが、僕の仕事ですね。そして、これらを踏まえた上で、スタッフの教育も含めて”レストラン”というスタイルにしていかなければならないと思っています。

あと、先ほどお鮨屋さんの例えを出しましたが、僕は昔から『すし匠』の中澤圭二さんをすごく尊敬しています。『すし匠』から独立された方は数多くいらっしゃっいますが、皆さん独立して活躍されながらも、中澤さんのことを親方と呼んで慕っていらっしゃいます。うちのスタッフにも僕のことを親方と呼ばせていますが、焼肉店もお鮨屋さんのように系譜を引き、うちから独立したあとも共にこの焼肉業界を変えていく仲間として歩んでいけるような組織をつくっていきたいと思います。僕はこれを「鮨屋の世界」と呼んでいますが、このような世界を理想とし、目指していきたいです。

――― 『炭火焼肉 なかはら』では一頭買いをされているので、商品化できない部位を上手く売るためにも、なおさら職人は必要ですね。

そうですね。一頭買いをやっていくと、焼肉としては出しにくい部位も出てきます。例えばスネ肉ですね。スジが入っていて肉質が硬いため出せないのですが、これも上手く売っていかなければなりません。そこで、昨年『ヘンリーズバーガー』というハンバーガー屋を代官山にオープンしました。いろいろなハンバーガー屋さんに話を聞いてみると、パテ(肉)として一番おいしいのはスネ肉だと口を揃えて言うんです。ならば、うちで仕入れた牛のスネ肉を使って徹底的にシンプルでおいしいハンバーガーを作ってみようと思ったのです。

ハンバーガー作りもかなりこだわりましたよ。パテは、肉のおいしさを最大限に引き出すために、つなぎゼロでやっています。和牛というサシが強い肉でつなぎゼロだと、肉が結着せずにボロボロと崩れていきますが、『ヘンリーズバーガー』では、ひき肉の粗さで上手くバランスをとって、グリドル(鉄板焼き器)の温度とスマッシャー(アイロンのような蓋)の圧力を工夫して焼くことで、絶妙なパテに仕上げています。バンズに関しても、馬場フラットさんと共同で、半年かけて開発しました。

炭火焼肉 なかはら_中原シェフインタビュー 炭火焼肉なかはら_コメント2

自ら厳選した和牛を手切りし、おいしさの限界に挑戦する

――― 質の良い肉を出すためのこだわりはありますか?

まず肉のカットは手切りにこだわっています。お客様の立場になったら、スライサーより手切りの方がいいですよね。そして、現在は生の肉を都度手切りしてお出ししています。カットの仕方も肉の温度が何度ぐらいで思ったように切れるのか試行錯誤して、どれだけおいしく肉を出せるか、自分の限界まで挑戦しようと思いながら切っています。手切りした肉は少しでもスジや食感が悪くなりそうな箇所が入っていたら全部外します。全てのお客様に同じレベルの肉をお出しすることにかなりこだわっています。

炭火焼肉 なかはら_肉の手切り

――― 高級和牛を出されていますが、原価もかなりかけているのでしょうか?

そうですね。価格に関しては焼肉店を始めたときからこの考え方です。よく飲食店では、原価率30%といいますよね。それでいくと、300円で仕入れたのものを1000円で売る、これが原価率30%です。利益が700円。では、同じ大きさで、質が違うだけだが3万円で仕入れた肉を10万で売らないといけないかというと僕はそうはしません。3万700円で売ればいいと思っています。ただ3万円のものを扱う技術がなかったら3万700円では売れませんが。あとはロスを少なくすることを考えています。だから僕はお客様が多くなればなるほど、もっともっといい素材をどんどん使っていこうと思っています。そうすることで、ロスが少なくなるからです。そこまでこだわっているので、現在うちの肉の原価率は70%ですね。手元に残るお金は昔から変わりません。あとはお客様がその価格に納得して注文いただくかどうか。これが僕のやり方です。

――― 人気の焼肉店に必要なものはなんでしょうか?

何を使って焼くか、どんなタレを使うか、どんな肉を使うのか、この3つのバランスですね。何を使うかとは、炭火で焼くのかガスを使って焼くのかという熱源のことです。このトライアングルがピタッと合わさっている店が人気店の必須条件だと思います。焼肉店の修業はこの3つを学ぶことですね。『炭火焼肉なかはら』で言えば、炭火を使い、タレは化学調味料を使わずベースのためにゲンコツを煮だして、厳選した醤油などを加えて作るあっさりとしたものを使っています。肉に関しては、脂が軽くて、サーロインなどを切ったときに、判が比較的大きくとれる厳選したものを仕入れています。そして、シンプルにどうやったらおいしくなるかなと日々考えることが必要です。お店が人気になったから「おしまい」ではないんですよ。まだまだ直せるところがあると考えることが重要ですね。

炭火焼肉 なかはら_田村牛の証明書

『炭火焼肉 なかはら』では、但馬牛が素牛の「田村牛」を中心に一頭買いで仕入れている。

――― 日本の焼肉の文化を世界に発信するにあたり、中原さんのお考えになっていることはありますか?

和牛はいまや世界的なブランドになっていますが、もし海外で正しい和牛の扱い方をしていない店が出てきた場合は、改善をしに行かないといけないですね。そうならないためにも2つ考えていることがあります。まず1つ目は、海外のお客様に一度、日本で本物の焼肉を食べていただき、国にお帰りになった際に「日本に行けば本物の焼肉が食べられるよ」と広めていただきたいですね。2つ目は、海外でイベントを行う予定です。これは今年の11月にタイで開催予定で、『鳥しき』の池川義輝さんと一緒に行きます。「日本の職人の仕事とはこういうものだ」と紹介していくイベントにする予定です。

――― 最後に、今後の展望をお聞かせください。

日本で信念をもっておいしい和牛をつくっている生産者さんの力になりたいと考えています。いま、和牛の生産者さんは、どんどん辞めてしまっているんですね。なんで辞めてしまうかというと、いろいろな原因がありますが、その一つとして牛のセリにも問題があります。例えば2種類の牛がセリに出されていたとします。一つは、但馬牛が素牛で質の高い牛を100万円で仕入れたもの、もう一つはそれ以外の和牛で30万円で仕入れたものだとします。飼育料はどちらも100万円。そうすると200万円の牛と130万円の牛がセリに出されることになりますよね。そうすると、このご時世200万円の和牛は、例えば初値がキロ4000円で誰も買わず、3900円、3800円と下がってから誰かが購入する。そして130万円の和牛は、例えば初値がキロ2600円からスタートした場合、価格が安いため購入者が集中するので、2700円、2800円と値段が上がった状態で誰かが購入する。すると生産者さんは、質の高い肉をつくっても、初値より低い価格でしか売れないため、それならば手間のかかる高級な和牛をつくらないほうがいいじゃないかとなるわけです。だから僕は前者を応援したいんです。なので、これからも手間暇かけて育てられた高級な和牛を厳選しながら買い続け、その和牛のおいしさを追究し、劣化をさせずにどれだけおいしく出せるかという努力を日々積み重ねていきたいと思います。

炭火焼肉 なかはら_中原シェフ

〈親方からの一言〉
焼肉店を初めてから15年の月日が経ち、いまでは多くのお客様にご来店いただき、日々感謝しております。この春には『炭火焼肉なかはら』から独立して店を出す者もおりますが、今後も、肉に関してプロフェッショナルな“職人”を育成し、「焼肉店で技術を学びたい」と憧れをもたれる店であり続けたいと思います。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

【聞き手・文】白石直久
【撮影】キミヒロ


『炭火焼肉 なかはら』へのアクセス〉


・JR中央線「市ケ谷駅」徒歩2分
・都営地下鉄新宿線「市ヶ谷駅」より徒歩2分
・東京メトロ有楽町線・南北線「市ケ谷駅」より徒歩4分
・東京メトロ有楽町線「麹町駅」より徒歩5分

炭火焼肉 なかはら_店内
キッチンから店内全体が見渡せるように設計された店内。各テーブルの食べるスピードを見て、肉が一番おいしい状態で食べることができるように手切りしていくための工夫のひとつだ。
炭火焼肉 なかはら_ロケーション
「市ヶ谷」駅側から「麹町」駅側を見たロケーション。写真右のビルのエレベーターで上がった9階に店を構える。
Restaurant Data
店名: 炭火焼肉 なかはら
住所: 東京都千代田区六番町4-3 GEMS市ヶ谷 9F
営業時間: 17:00~23:00(L.O 22:30)
定休日: 水曜日

『炭火焼肉 なかはら』は予約困難店ですが、ポケットコンシェルジュに会員登録していただくと、様々なレストランの最新情報を受け取ることができるようになります。

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