京都北部の丹後地方。日本海の若狭湾に面し、「天橋立」を有する観光地としても知られる宮津市に店を構えるのが『西入る(にしいる)』。ポルトガル出身の親方、リカルド・コモリ氏が、女将の小森 美穂(こもり みお)氏と二人三脚で切り盛りする鮨割烹だ。
宮津市といえば、鮨職人羨望の的であり、名店がこぞって使用する富士酢で知られる『飯尾醸造』が蔵を構える土地。そこに『西入る』開業のワケがある。故郷リスボンの調理師学校時代、日本料理の味や調理法など、全てに感銘を受けたコモリ氏は、さらなる飛躍を求めて来日。山梨、静岡、群馬といった観光地で腕を振った後、『パレスホテル東京 鮨 かねさか』に入り、江戸前鮨の仕込みを学ぶ。さらに銀座『六雁』、南青山『てのしま』でカウンター割烹、野菜料理を身につけると、京料理を極めるために京都『杦(SEN)』で研鑽を積み、自身が思い描く料理スタイルの礎を築いた。
京都での開業を思案中、『飯尾醸造』を訪ねると、海山に囲まれた宮津市の風土に一目惚れ。2022年6月、『飯尾醸造』所有の蔵を利用したカウンター鮨割烹『西入る』をオープンさせた。提供するのは、丹後エリアの魚介に、採れたての地場野菜を使い、日本料理をベースにこれまで培った料理法と、自身のアイデンティティを反映させた料理。コースは、先付けから焼き物までの料理を提供後、鮨(7貫ほど)が登場。特筆すべきは、『飯尾醸造』が契約農家で無農薬栽培したコシヒカリと、その米で作り上げる富士酢を3種ブレンドして使うという、唯一無二の酢飯であることだ。また、鮨の玉子のように〆で提供されるのが、カステラの先祖と言われるポルトガル伝統菓子「パォンデロー」。丹後の日本酒を主に揃えるドリンクメニューの中に、「パォンデロー」との相性の良いポルトガルワインが用意されているので、マリアージュを楽しみたい。
築100年以上の蔵をリノベーションした店内。剥き出しになった梁が重厚感を醸し出し、ヒノキ一枚板のカウンター(6席)が目を引く。日本料理、江戸前鮨に魅了され、腕を磨いたポルトガル人親方による唯一無二の料理を、京都・丹後地方で、しみじみ堪能されてはいかがだろうか。海外ゲストのおもてなしにも最適なのは言うまでもない。
■アクセス
北近畿タンゴ鉄道宮福線、宮津線 宮津駅より徒歩10分