大阪市内の地下鉄・肥後橋駅から徒歩3分。広々とした靭(うつぼ)公園に程近い、閑静な通りにあるのが『京町料理みつや』。京都で長年腕を磨いた大将の松村 知典(まつむら とものり)氏が、京町料理を提供する一つ星の日本料理店だ。
松村氏が料理の世界に入ったのは、神戸のステーキハウスで働いたのがきっかけ。それから日本料理の道へ進み、京都伏見の料亭『魚三楼(うおさぶろう)』で10年経った頃、自身の後学と視野を広げるためにフランスへと旅立った。現地では日本料理店ではなく、パリのビストロや、ガストロノミーレストランなど4店で働き、フランス料理だけを学ぶことで新たな風を自からに吹き込んだ。帰国後、京都や大阪で研鑽を積んでいたが、多忙を極め体調を崩してしまい、一時は料理人人生をも危ぶまれた。しかし、その苦境を乗り越え、当時声をかけてくれた現オーナーの元で、2014年に『京町料理みつや』をオープン。“星がつく店に”を合言葉に腕をふるい、開店1年目にして一つ星を獲得する人気店となった。
店名の『みつや』には、素材・人・感謝の3本の矢を大切に、的を射たおもてなしをしたい、という想いが込められている。使用する素材は、昔ながらの製法で大豆から作られた和歌山の醤油や、水や肥料にこだわる淡路島の「椚座牛(くぬぎざぎゅう)」など、松村氏が“本物”だと思えるものを厳選。生産者と密に連絡をとり信頼関係を作ることで、自身をもって食材の紹介ができるという想いから、生産者の元へ足を運び、ストーリーや想いをお客様へ伝える役割も果たしている。
おまかせコースのトップを飾るのは、日本料理の要である「だし」。2日間かけて丁寧に引く昆布とマグロ節の「だし」をお猪口で提供し、身体を温める。そして、松村氏が最も力を入れている料理の一つが椀の「しんじょう」である。箸をいれた瞬間にふわっとほどけて割れるしんじょうの軽やかさはどこの店にも負けない。そして食べた瞬間、素材の味わいが先にくるよう吸物には一切調味をせず、素材の風味を味わってもらうという一品だ。また、「野菜のしんじょう」の中でも白ネギは、油で炒めて魚のアラで炊き、ミキサーにかけてすり流しにするという、パリで会得したフランス料理の手法を取り入れている。料理に合わせる日本酒は、秋田「新政」を全種類と、静岡「磯自慢」を主に用意。ワインはニュージーランド「キムラ・セラーズ」「クスダ・ワインズ」など、やわらかな料理に寄り添う8種類を置く。
店内は、女性デザイナーによる優しさを感じられる内装で、落ち着いた雰囲気。器は、京都亀岡の陶芸家・吉井史郎氏の作品を開店当時から使用。9席のカウンターのうち、奥の4席は靴を脱ぐ小上がりの掘り炬燵式になっており、松村氏の調理姿が包み隠さずよく見えることで人気の席となっている。家族や友人、仕事仲間やデート、そして海外ゲストのおもてなしなど、温かい心地を味わえる空間にて、心のこもった『京町料理みつや』の料理をゆったりと楽しんでいただきたい。
※世界的グルメガイド京都・大阪 2023年度版にて一つ星を獲得
■アクセス
大阪市営地下鉄四つ橋線 肥後橋駅 7番出口 徒歩6分